国際共同制作舞台「Cosmos-コスモス」から(Photo by Tobiasz Papuczys)

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 私たちは常に社会とのギャップを感じ、ストレスを溜めながら生きている。個人という存在が社会システムとどうしても噛み合わないからだ。

 そうした社会システムを生み出したのは、ヨーロッパの啓蒙主義で幕を開けた近代である。欲望を無慈悲に抑圧する近代の社会秩序は、内包する矛盾によって様々な病理を生み出すことになった。

 個人の欲望を解放しようとする模索もあった。ロマン主義やシュールレアリスムなどの芸術運動、あるいはゲーテ、ニーチェ、カフカ、ランボー、ボードレールといった思想家、作家たちはそういった脈絡の中で登場した。

 だがそれにもかかわらず、矛盾は不可避的に増幅し第2次世界大戦という破局を招いてしまった。

“東南アジアの臭気”が漂う小池博史の作品

 戦後の欧米では個人の崩壊、人間性の崩壊の克服が意図され、その影響は1960年代から80年代の日本にも及んだ。芸能の世界では寺山修司の主宰した劇団・天井桟敷、あるいは土方巽や大野一雄らによる暗黒舞踏がまさにそれだった。

 だが、そういった動きは私が大学を卒業した90年代から徐々に日本から薄れていった。

 そんな今の日本において、ぜひみなさんに知っていただきたい演出家を一人紹介したい。