徴用工問題の解決策に抗議する人々(写真:AP/アフロ)

(立花 志音:在韓ライター)

「お母さん、最近、尹錫悦が悪口言われまくってるけど、韓国はまた日本に負けるの?」

 3月某日、春の訪れには少し早いが、韓国は一足先に新学期が始まった。 朝の7時に家を出るときはまだ寒いが、3本線のロングダウンコートに別れを告げて、長男は高校2年生になった。

 新しい担任は面倒見がよさそうな30代の男性教員ということだ。お気に入りだった化学の女性教員が自分の学年の担当になったんだと、ニコニコしながら話す。マドンナ先生がいるのも男子校あるあるで、かわいいものだ。

 その日は、塾に行く前に一度、家に帰ってきた。2年生になったので、始まる時間が1時間遅くなったのだという。そうなると塾が終わるのは夜の10時だ。「じゃあ、来年になったらもっと遅くなるの?」という母親の問いに答える代わりに飛んできたのが、冒頭の質問だった。

 安定のとんちんかんである。

 世間では思春期真っ最中で怖いもの知らずの子を「中2病」と言うが、「高2病」という変異株が発生したようだ。

 韓国ではノーベル賞受賞者が発表される10月になると、国民が憂鬱になるという逸話がある。今年は新しい変異株を発見した筆者が表彰されて、この国の羨望と嫉妬を一気に浴びるかも、なんて頭に浮かんだくだらない冗談を必死に消しながら、息子の質問の解読を始めることにした。

「勝った負けたってなんの話? サッカー? 野球? なんで大統領なの?」

 情報量があまりにも少なくて理解不能である。

「なんか今、日本とやり取りしてるんでしょ、今。慰安婦みたいの」

 そうである。韓国から日本の動きを見ていると非常にあやしい。日本があやしいというよりは、岸田首相があやしいのだ。何があやしいのかというと、ここ何カ月も続いている、いわゆる「徴用工問題」である。