中国・武漢を流れる揚子江(資料写真、2022年12月31日、写真:ロイター/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 中国・武漢で起きた退職工員たちによるデモがただごとではないと話題になっている。シュプレヒコールの中で「反動政府を打倒せよ」という言葉が叫ばれていたからだ。

 昨年(2022年)11月に南京の大学から始まった、若者が白紙を掲げてゼロコロナ政策などに抵抗した「白紙革命」では、「共産党下台(共産党は退陣しろ)」「習近平下台(習近平は退陣しろ)」という叫びがあった。今度は退職した老人たちが立ち上がる「白髪革命」で政府打倒の呼びかけが起きたのだ。しかも場所は武漢という「革命の聖地」である。

 習近平は第3期目総書記の任期継続を決め、新型コロナに対する決定的勝利を先日宣言し、3月の全人代に万全の体制で臨もうとしている。しかし、この社会の動揺はその足元をすくいかねない状況だ。

政府打倒を叫ぶ白髪交じりの退職者たち

 武漢で「白髪革命デモ」が起きたのは2月8日、そして15日。デモの目的は、中国で目下全国的に進められている医療保険改革を撤回させることだ。

 最初のデモは2月8日、国有企業である武漢鉄鋼の退職工員を中心とした元工場労働者たちによって行われた。彼らは市政府前に集まって、医療保険新政策(医保新政)反対のスローガンを掲げてデモを行った。その数はゆうに1万人を超えており、国内外の耳目を集めた。

 デモ参加者によれば、2月1日から始まった医保新政により、武漢市だけで200万人近くいる退職工が悪影響を受けているという。政府がこの政策を撤回するなりして問題を解決しなければ、15日にさらに大規模な抗議を起こす、と訴えた。8日は雨で、政府市庁舎前の広場には、退職工らが市庁舎の出入り口をふさぐように詰めかけていた。敷地内は警察が厳戒警備を敷き、緊張感が漂った。