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ウクライナにルーツを持つカナダのフリーランド副首相(写真:ロイター/アフロ)

(文:名越健郎)

G7でも対露制裁の急先鋒であるカナダには、戦間期に移住した約140万人のウクライナ系住民が暮らしている。米国のウクライナ系とは違う強力な政治的パワーとなったこの人々は、次期NATO事務総長候補とされるクリスティア・フリーランド副首相のルーツでもある。カナダ世論で広がるウクライナへの支援強化やNATO加盟の呼び掛けが国際世論に影響力を増す可能性も。

 ロシアのウクライナ侵攻に反発するG7(主要7カ国)で、最も反露志向が強いのが英国とカナダだ。カナダには、人口の3.6%に当たる約140万人のウクライナ系住民が居住し、ウクライナ、ロシアに続く世界3位のウクライナ人を抱える。ウクライナへの親近感が強く、ロシア軍の侵攻開始から8カ月間のウクライナ向け軍事援助は9億2000万ドルと、米、英、ポーランド、ドイツに次いで世界第5位。数千人のカナダ人義勇兵がウクライナ軍に加わっているとの情報もある。

 ジャスティン・トルドー政権ナンバー2の女性、クリスティア・フリーランド副首相兼財務相(54)は母親がウクライナ人で、キーウ大学に留学。来年交代する北大西洋条約機構(NATO)事務総長の有力候補だ。戦争の行方に影響力を持つカナダのウクライナ・コネクションを探った。

ウクライナ独立を真っ先に承認したカナダ

 筆者は時事通信記者としてモスクワに駐在していた1991年11月、「米政府がウクライナ独立を承認へ――カナダ外交文書」という独自記事を書いたことがある。たまたま入手したカナダ政府の外交機密文書に基づく情報で、米政府がカナダの強い説得を受け、12月1日のウクライナ独立国民投票が可決されれば、独立を承認するという内容だった。米国がソ連第2の共和国の独立を承認すれば、ソ連邦は崩壊に向けて動き出す。

 旧ソ連15共和国のうち、ソ連邦からの独立を問う国民投票を実施したのはウクライナだけで、90%以上の賛成で承認された。カナダ政府が真っ先に独立を承認し、米政府も後に追随した。

 当時のジョージ・ブッシュ(父)米大統領はミハイル・ゴルバチョフ・ソ連大統領との友情や地政学的変動に配慮し、ソ連解体には否定的だったが、カナダが強く働きかけていた。

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