10月30日、ソウル市の繁華街・梨泰院で発生した集団圧死事故の現場で負傷者の救助にあたる救急隊員たち(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 ハロウィンを前にソウルの梨泰院で痛ましい事故が起こった。そして、「もしかして」とは思ったが、やはりこの圧死事故を、時の政権に責任があるとして、権力闘争の道具として利用しようとする勢力が現れた。

 韓国の最大野党「共に民主党」のシンクタンク「民主研究院」の南英姫(ナム・ヨンヒ)副院長は10月30日、梨泰院の圧死事故について、「原因は尹錫悦大統領の意向によって青瓦台が移転したからだ」とし、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と呉世勲(オ・セフン)ソウル市長、李祥敏(イ・サンミン)行政安全部長官の辞任を要求したのだ。

文在寅前大統領、李在明代表周辺にも及んでいる検察の捜査

 韓国では現在、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領や李在明(イ・ジェミョン)民主党代表周辺の疑惑捜査に、検察が全力を注いでいる。

 韓国国会で圧倒的多数を握る進歩系野党「共に民主党」(以下“民主党”)と同党を支持する革新系団体は、当然ながらこの状況を苦々しく思っている。そこで、検察および尹錫悦政権に対する大規模な街頭デモを支持者に呼び掛けているのだ。国会における尹大統領の施政方針演説をボイコットしておきながら「場外闘争」に持ち込もうというわけである。

 国会ではなく、街頭での示威行動に活路を見出そうとするのは、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)を「ロウソク集会」で弾劾に追い込んだ政権交代の再現を夢見ているからなのだろうか。あるいは尹錫悦政権に圧力をかけることで、李在明氏や文在寅前政権の主要人物への不正追及を免れようとしているのであろうか。