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中国・ラオス鉄道の準高速列車「瀾滄号」 写真・筆者提供

(文:宮城英二)

コロナ禍の中で開通した高規格鉄道「中国・ラオス鉄道」。その沿線は、中国の広域経済圏構想「一帯一路」の最前線でもある。ASEAN諸国の中でも発展が遅れたラオスの風景を、中国の巨大資本はどのように変えているのか。日本人ジャーナリストが現地を歩いた。

 インドシナ半島の内陸国ラオス。人口は約730万人、国土のほとんどを山岳地帯が占め、長年経済発展から取り残されてきた。1人当たり国内総生産(GDP・名目)は約2626ドル(2020年)で東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国ではミャンマー、カンボジアに次いで低い。これまでは文化的類似性から隣国タイとの結び付きが強かったのだが、ここ数年で北方の「巨人」が凄まじい勢いで影響力を拡大している。その足取りはコロナによる鎖国中も止まることはなかった。渡航規制の解除を待って、現地に足を踏み入れた。

突如姿を見せた高規格鉄道

 影響力を最も象徴するのは何と言っても2021年12月3日に中国主導で開通した「中国・ラオス鉄道」だろう。ラオス領内は全長422キロメートルで、同時開通した中国領内の区間と共に、中国雲南省からラオスの首都ビエンチャンに至る鉄路が完成したのだ。中国のインフラ工事はやると決めたら速い。工期5年の突貫工事だった。これまでタイ国境部の一部を除き鉄道が存在しなかったラオスに突如、高規格鉄道が開通したのだから、まさに驚天動地の変化である。

 6月4日早朝、筆者はラオス側の始発駅であるビエンチャン駅に立った。市内から道路距離にして14キロも離れた北部郊外にあり、立地としてはかなり不便な場所にある。駅舎は中国国内に近年張り巡らされた高速鉄道の地方駅と酷似していた。今のラオスでは有数の壮大な建築物であり、中国が国力をアピールしようとする威圧感さえあった。

中国・ラオス鉄道のビエンチャン駅 写真・筆者提供

 改札が始まると、既に1番ホームには中国の在来線を高速運転する「準高速列車」の中国鉄道CR200J型列車が入線していた。ラオス国内ではメコン川の中国名である瀾滄(らんそう)江にちなみ、「瀾滄号」と呼ばれている。車体に赤青白のラオス国旗色の塗装を施したのは、ラオスの国民感情への配慮と言われている。車内の構造は基本的に中国国内で走っている列車と同じで、二等車、一等車のほか、フルリクライニングのビジネスクラスまである。

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