ハードワークを苦にしない労働者の魂と郷土愛が恐怖を上回る

 ボディアーマーに入れる鋼鉄板は口径7.62ミリメートルの自動小銃AK-47を20メートル離れた距離から発射してもかすり傷がつく程度だ。前後で計8キログラムのボディアーマーを試着するとずっしりと重く、息苦しかった。責任者のコンスタンティン氏は「ウクライナの兵士は屈強だから、これぐらいの重さは何でもないよ」と胸を張った。

重さ4キログラムの鋼鉄板を持つコンスタンティン氏(筆者撮影)

 これまでに1万着以上のボディアーマー用ベストと1000着の軍服を生産した。ロシア軍が数百メートルの距離に迫っても、約50人の女性従業員は24時間態勢でベストを作り続けた。ロシア軍が迫ってくればくるほど忙しくなった。

 10%の従業員が避難して工場からいなくなった。しかしハードワークを苦にしない労働者魂と郷土愛が恐怖心を打ち消した。

 ロシア軍の占領地域が近いクリヴィー・リフでは今でも頻繁に空襲警報が鳴り響く。地元の従業員は気にしなくなったが、ロシア軍に包囲され、激しい砲撃を受けた南東部の港湾都市マリウポリから逃れてきた従業員は空襲警報が鳴るたび、地下の防空壕に身を隠す。従業員の10~15%がマリウポリのほか、南部ヘルソンや東部ドネツクからの国内避難民だ。

軍服を作る民間のアパレル縫製工場(筆者撮影、一部加工しています)

 コンスタンティン氏は「冬用の軍服は500ものパーツからなる。ロシア軍の侵攻でサプライチェーンが寸断され、材料が不足している。何かを犠牲にしなければ冬用の軍服は作れない。不安や恐怖心がないと言えばウソになる。しかしウクライナは勝つ、正義が実現すると信じている」と強調した。