プーチンの選択が裏目に

 ウクライナの戦場では、西側からの武器援助で力をつけたウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、プーチンは目的を達成していない。それに加えて、北欧でNATO加盟国が二カ国も増えるということになると、何のためのウクライナ侵攻か分からなくなる。皮肉な結果を招くだけになりかねない。

 それだけに、ロシアはフィンランドの領空を侵犯するなどして警告している。これに対して、イギリスのジョンソン首相は、11日にスウェーデンとフィンランドを訪問し、有事の際には両国と軍事上の協力をすることで合意した。これは、ロシアに対する牽制球である。

 北欧では、ノルウェーとデンマークがNATO加盟国、スウェーデンが中立国、フィンランドはかつて「フィンランド化」と揶揄されたようにロシアへの融和的姿勢を維持してきた。これは、それぞれの地政学的要因によるところが大きい。

 しかし、ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして、ロシアと1340kmの国境を接するフィンランドは、かつてのソ連軍による侵略の記憶が甦り、安全保障体制を再構築する決意を固めたのである。

 ノルウェーとフィンランドの中間でバランスをとっていた中立国スウェーデンもまた、ロシアの脅威を再認識したようである。近世にスウェーデンはロシアと戦い、18世紀にはロシアを降伏させている。19世紀のナポレオン戦争のときには、ロシアに大敗している。いずれも戦場はフィンランドである。

 フィンランドもスウェーデンも強力な軍隊を持ち、ロシア軍が簡単に屈服できる相手ではないが、それでもNATO加盟を模索するのは、ウクライナの二の舞になりたくないからである。

 プーチンのウクライナ侵略は、北欧の安全保障体制を根本から変えてしまいそうである。スカンジナビア半島全体がNATOに組み込まれるということは、ロシアの隣に、核ミサイルをはじめアメリカ製の兵器が配備されるということになる。これはプーチンにとっては悪夢であるが、その悪夢が現実のものとなりつつある。

 問題は、それを阻止するために、ロシアが何らかの行動に出ないかどうかということである。すでに西部国境地帯にロシアが核ミサイルを配備し始めたという報道もある。注意して観察する必要がある。