フィリピン海でドック型輸送揚陸艦ジョン・P・マーサに着艦するMH-60Sシーホークヘリコプター(資料写真、出所:米海軍)

(古森 義久:日本戦略研究フォーラム顧問、産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 アメリカのバイデン政権が3月末に発表した2023会計年度の国防予算が、国政の場で懸念や批判の対象となった。その一例として、アメリカ議会上下両院の軍事委員会でも、超党派の議員たちから増額を求める声が起きている。こうした批判の背景には、ロシアのウクライナ侵略に象徴される現在の世界の軍事情勢の異常な緊迫への警戒があると言えよう。

実質的には前年よりマイナス

 バイデン政権の国防総省予算は2023年度7730億ドルで「史上最大額」とされるが、近年のアメリカ歴代政権の国防予算はオバマ政権時代の数年を除き、一貫して自動的に増えてきた。だから毎年、自然に最大額となるわけだ。そのうえでの今回の国防予算への評価では、まず規模への批判が目立った。

 2023年度国防予算は、数字だけの前年比では4.1%増とされた。だがインフレ率を差し引いた実質上の伸びは国防総省の算定でも1.5%とされる。アメリカのいまのインフレは8%以上だから、現実には前年よりマイナスとなる。

 今回の国防予算は、前年の2022年度予算よりも額面では307億ドルの増加となる。しかし国防総省当局者の説明によると、この増額分のうち140億ドルは機材やサービスの外部からの購入費のインフレ分の増加、60億ドルはアメリカ軍将兵への給与のインフレ対応4.6%増の昇給分に回されるという。兵器類への実際の支出の増額はきわめて少ないわけだ。