そして政権を去る間際になってまで、文在寅大統領は公共機関の長を、文政権に近い人で独占するような人事を行っている。確かに公共機関のトップに関する人事権は大統領にあるのかも知れない。その意味では、次期大統領の尹氏が口をはさむ余地はないともいえる。

 だが、文大統領が行っている人事は、当該公共機関の仕事の経験はなく、ただ文在寅政権の幹部や側近を起用しているだけだ。適材適所とは思えない。これでは、尹錫悦政権に移行した時、公的事業の実務能力が阻害されてしまうのは不可避である。

 文大統領側は「人事は大統領の当然の職務」と強弁するかもしれないが、尹氏から見れば、退任する前任者による嫌がらせ以外の何物でもない。これにより韓国内の公的事業の運営に支障が出るようなことになれば、一番の被害者は韓国の国民ということになるだろう。

 公共機関の長や幹部の人事を、今後文大統領はどう決めていくのか。場合によっては、現・次期政権の対立を深める大きなきっかけになる。

李明博元大統領の赦免、文大統領はどう決断するか

 新旧大統領の間の溝を予想させる事案は他にもある。

 延期になったものの16日に予定されていた会談について、15日付の中央日報は、「この文・尹会談で、尹氏が李明博元大統領の赦免を申し入れ、文在寅氏が受け入れる可能性が大きくなっている」と報じていた。同紙の取材に対し青瓦台関係者も「尹氏が会合で直接、李元大統領の赦免を要請する場合、文大統領が拒否することは難しいだろう」と述べたという。

 尹氏は「前職大統領が長期間収監される姿が国際的にも国民の未来のためにも果たして望ましいのか、多くの疑問を持っている」と何度も言及している。

 文大統領も今回の選挙では「葛藤の多かった選挙」だとし、「今こそ統合と包容の政治に向けて進むべき時」と述べている。

 一見すれば、尹氏が李明博元大統領の赦免を要請し、これに文大統領が応じたとすれば、国民統合に向けて2人が協力したような印象を受ける。だが、2人の思惑はそれぞれ別のところにあるのではないか。新旧大統領の会談延期の理由に、与党内で李明博元大統領の赦免に反対の声が大きくなったことを指摘する向きが多い。赦免したければ大統領になってからすればいいと反発しているようだ。