(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 わたしの昼食は1年365日、ほぼ外食である。「早い・安い・それなりにうまい」という3条件が必須だから、行く店はもっぱらどの町にもあるチェーン店がメインになる。

 牛丼は「吉野家」で、「すき家」や「松屋」にはめったに行かない。食べるのは牛丼並と味噌汁で決まっている。松屋は以前の390円のカレーが絶品だったのに、創業カレーと改名して値上げしたあと、うまくなくなった。天ぷらの「てんや」では天丼プラス野菜天2品、とんかつの「松之家」ではロースかつ定食、「丸亀製麵」では釜揚げうどんの並に天ぷら2品である。「餃子の王将」にも行くが、「餃子の満州」のほうが多い。ここは炒飯に餃子で決まり。

 食べるものはどの店でもだいたい決まっている。あれこれ考えるのがめんどうくさいのである。毎回、同じもので満足である。不満はまったくない。

井之頭五郎の昼飯代はいくらだ?

 テレビドラマ「孤独のグルメ」の主人公井之頭五郎はもちろん、こんなチェーン店には行かない。視聴者はみんな、五郎以上に知っているからだ。ちょうど「シーズン9」が9月末で終わったばかりだが、これまでのは全部見ている。しかしいつごろからか、五郎を演じている松重豊のおちょぼ口みたいな口の開け方が妙に癇に障るようになった。五郎が他人の食べてるものを欲しがり、すぐ頼むというのも気に入らない。脚本がそうなっているのだろうが、「いやいや、ここは我慢」といわせてもらいたい。たぶん「シーズン10」もあるだろうから。

 五郎は食事の前後には礼儀正しく「いただきます」「ごちそうさまでした」をかならずいう。そのくせ、食事の最中に、豪快さを演出しようというのか、バックミュージックが高鳴るなか、皿を持ち上げ縁(ふち)に口をつけてメシを掻き込む姿がいかにも見苦しい。本性はこっちで、礼儀正しさの方はフェイクか。五郎の人間性がちぐはぐなのだ。それに餃子は噛み切るな。一口で食えよ。

 そんなことよりもっと気になることがある。五郎は昼飯に毎回3000円~5000円くらい使っているのである。番組上しかたないのはわかるが、現実にはありえない。わたしの昼食代は平均して500円前後である(ほかにコーヒー代や水代もかかるのだ)。

 多いときでもせいぜい1000円から1500円。それは回転寿司に行くときである。もちろんひとり寿司。そういえば、五郎は1回も寿司屋に行かなかったな。

※編集部注:五郎は、シーズン6エピソード5で東京都世田谷区の回転寿司に行っていました。(2021/10/9)