序言

日露外相会談、露外相が北方領土問題めぐり不快感示す

セルゲイ・ラブロフ外相との会談に臨む前原誠司・前外相〔AFPBB News

 本件に関し、ロシアが近年とみに強硬姿勢に転じた中、前原誠司前外相は去る2月9日固い決意を秘めてモスクワに乗りこんだ。

 しかし、セルゲイ・ラブロフ外相と北方領土返還を中心議題に会談したが、ロシアの頑なな姿勢を崩すことができず、ドミトリー・メドベージェフ大統領にも会えずに、さだたる成果もなく却って共同開発を提案され検討を約して帰国した。

 先の大戦が終結した後の昭和20(1945)年8月末から9月初めにかけて、ソ連が不法にも我が国の固有の領土(北方領土の島々)を武力占領し、父祖の地から無辜の住民が追い出されてより、66年を経たが歴代政権の返還努力にもかかわらず、日本国民の総意なかんずく元島民の悲願も空しく、返還交渉は少しも実らずにいる。

 外交交渉は国際情勢と関係国の相対的力関係と両国の国内情勢によって左右されるが、本交渉もこれらを反映し、ソ連崩壊当時には一時一筋の光の差したこともあったが、遺憾ながら強いロシアに対し、弱い我が国の返還要求が4島か2島か、一括返還か2段階返還か、政経不可分か政経分離か或いは両論かと諸論が交錯して、ロシア側に翻弄されてきた。

 近年ロシアは石油・天然ガスの高騰から経済が回復し、加えて権力志向の強いウラジーミル・プーチン氏が指導者に登場すると、往年の大国主義が復活し、しかも欧州正面の安定化と懸念を強いられてきた中国との関係修復に成功し、アジア太平洋に眼を転じて一段と強硬姿勢を露わにしてきた。

 これに対し、我が国は経済の国際競争力を弱め、中国韓国の台頭からバーゲニングパワーを失い、さらに新たに成立した民主党政権が、国家統治能力の薄弱さを暴露し、日米関係がぎくしゃくし、中国から弱みに付け込まれている。

 ロシアはこれに乗じ、北方領土領有の既成事実化を強めんとし、大統領自らまた幾人かの閣僚を現地視察させ、インフラ整備を大規模に実施し、駐留軍の増強を図り、過去の交渉経緯を反故にして、「第2次大戦の結果を受け入れよ」と迫っている。

 また最近ロシア第1外務次官は米駐ロ大使を招致し北方領土に関する米国の日本の立場支持にクレームを付けるなど強気の姿勢が目立ち、状況は過去最低のあり様に陥った。

 従来日本政府は、歴史と法および投資と技術供与で打解を図ろうとしてきたが、交渉力を支える中核の軍事力等がロシアのそれと比較にならないため、現行の方針のままでは経済的に利用されるだけで、交渉の行き詰まりは打開できない。

 従って、従来と違うアプローチを探さざるを得ない。本論はその1つを提示せんとするものである。