原材料に関する新協定を締結したEUとウクライナ(写真:EC AV Portal)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 欧州連合(EU)がウクライナに接近している。7月13日、EUのマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会副委員長(通商担当)とウクライナのデニス・シュミハリ首相は、原材料に関する戦略的提携に向けた覚書を交わした(写真)。EUの狙いは、ウクライナに埋蔵されている豊富な天然資源、とりわけ鉱物資源を確保することにある。

 EUの執行部局である欧州委員会は2020年10月、重要な原材料の戦略的な確保を目指す官民協働共同事業体「欧州原材料同盟(ERMA)」を発足させた。背景には、欧州委員会が重視する気候変動対策とデジタル化対策に必要不可欠となる原材料を確保するに当たり、特定の第三国に対する過度な依存を回避したいというEUの思惑がある。

 それでは、EUが過度な依存を回避したい特定の第三国とはどこかというと、その筆頭は人権問題などで対立を深める中国やロシア、トルコとなる。特に希土類(レアアース)の場合、EUは輸入の98%を中国に頼っている。こうした状況を改善していくための一手段として、EUは近隣諸国の一つであるウクライナに注目した。

 ウクライナには石炭をはじめ、鉄鉱石、マンガン、チタン、ウラン、カオリン、黒鉛、岩塩等が豊富に存在する。これらの鉱物資源のうちマンガンやチタンは、二次電池式電気自動車(BEV)の基幹パーツである車載用バッテリーにも利用が期待される。戦略的なEVシフトを目指すEUにとって、こうした鉱物の確保は最重要課題だ。

問われる「人権デューデリジェンス」との兼ね合い

 欧米社会は、いわゆる「人権デューデリジェンス(企業が事業活動に伴う人権侵害リスクを把握し、予防や軽減策を講じること。サプライチェーン<供給網>上での強制労働や児童労働の排除も含まれる)」を重視する。資源国の多くは後発国であるため、一次産品の生産に当たってEUが問題視する「人権問題」が生じることが少なくない。

 端的な例が、新疆ウイグル自治区における綿栽培だ。少数民族であるイスラム系住民が強制労働に従事させられていることを、欧米は極めて問題視している。こうした流れを受けてアパレル大手のH&M(スウェーデン)やバーバリー(英国)、スポーツ用品大手ではアディダス(ドイツ)など欧米の有力各社が新疆産の綿を利用しないと明言した。

 それではウクライナの人権状況はどのようなものか。