1 はじめに

 戦場における衛生支援は、人と装備の質によって大きく影響される。実戦を経験している米軍等は、軍事医学研究を積極的に推進し、救命率の向上や負傷兵のケアに全力を尽くしている。

 彼らは第一線の兵士に衛生兵並みの能力を持たせる教育を行い、戦地において自国内と同等レベルの医療を提供できる態勢をも構築している。傷病者が十分な医療を受けられることは、兵士のみならず国全体の士気に大きく影響するからである。

 一方、戦後半世紀以上にわたり平和な時代を過ごしてきた我が国の自衛隊は、現状において決して満足できる衛生支援態勢を構築しているわけではない。

 しかしながら、最近の国際情勢から、我が国の周辺は今まで以上に不安定な安全保障環境にあり、不測の事態がいつ生起してもおかしくない状況にある。

 また、国際社会の一員としての責務を履行するため、自衛隊の主たる任務の1つに国際平和協力活動が加えられた。現在、紛争地への派遣は法的に制約されているものの、近い将来、危険度が高く劣悪な環境にある地域への派遣の可能性が高まっている。

 カネを出すが人は出さずの時代から汗を流して他国に貢献する時代へ、場合によっては血を流す時代へと変化しつつあると言っても過言ではない。

 このような情勢下、自衛隊衛生は、何時如何なる事態においても隊員の生命を守るため、必要な機能の強化、とりわけ人と装備の質の向上を急がなければならない。

 今回、自衛隊を取り巻く環境や海外の軍衛生の動向等を踏まえ、厳しい任務の正面に立つであろう陸上自衛隊衛生の人材育成や装備に関する取り組みを紹介し、将来の方向性について提言する。