ワクチン接種会場の一つとなった「ジェイコブ・ジャヴィッツ・センター」(写真:Retsu Motoyoshi、以下同)

 米ニューヨーク市のコロナワクチン接種は2020年12月半ば、医療従事者のみを対象に始まった。その後、徐々に対象を拡大し、3月30日には30歳以上、4月6日には16歳以上すべての居住者が対象となった。FDA(米食品医薬品局)は15歳以下のワクチン接種を承認していないため、これで対象になり得るすべての居住者のワクチン接種が可能になった。

 2020年の4月には1日の死者数が1000人を超えるなど厳しい状況にあったニューヨークだが、ワクチン提供はひとまず順調に進んでいると言える。とはいえ、一人の民間プログラマーの貢献がなければ、今のようにスムーズにワクチン提供が進んでいなかったかもしれない。

TurboVaxではワクチンの空き情報が常時更新される

 ニューヨーク州でのワクチンの一般接種が開始された12月当初、接種の予約を取るにはニューヨーク州とニューヨーク市、その他の私企業が運営する3つの予約サイトを行き来し、自分の予定に合う日時・場所のスロットを探し出すことが求められた。当時の対象者だった65歳以上の高齢者には、かなり困難な作業だったことは想像に難くない。

 民泊サイト最大手のAirBnB(エア・ビー・アンド・ビー)のシステム・エンジニアで中国系米国人のヒュージ・マ氏は、母親がワクチンの予約ができないと嘆く姿を見て、3つのサイト情報を集約し、常時更新されるポータル・サイトTurboVaxを2回の週末をかけて作った。作成費用はサーバー代の50ドルだけ。シンプルなデザインで、即座に情報にアクセスできる使い勝手に特化したウェブサイトだ。

 ワクチン対象者が拡大されるにつれてTurboVaxはフォロワーを増やしていったが、2月末にニューヨーク・タイムズやガーディアンが「TurboVaxの中の人」という記事を掲載したこと、さらにサイトに連結したTwitterアカウントを政治家やセレブがフォローしたことで大きくバズることになった。フォロワーは現在、17万人を超える。

 筆者も、自身が対象になる前からTurboVaxのアカウントをフォローしていた。そして、3月30日に対象者が30歳以上になった後にワクチン接種を予約。4月9日に念願叶ってジェイコブ・ジャヴィッツ・センター(ニューヨーク市最大のコンベンション・センター)に向かった。