中国・深セン市にあるテンセント本社(2020年9月27日、写真:ロイター/アフロ)

(平井宏治:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・株式会社アシスト代表取締役)

 2021年3月31日、中国企業のテンセントは、その子会社を通じて、楽天が新たに発行した株を購入し(「第三者割当増資」という)、楽天の第6位の大株主になった。本件は3月12日に公表されて以降、識者から懸念が示されていた。にもかかわらず、楽天はテンセントとの業務資本提携を強行した。

 本稿では、ポートフォリオ投資、楽天の帳簿閲覧権、中国の国家情報法との関係などから懸念される問題を取り上げたい。

テンセントとは何者か

 楽天の大株主になったテンセント(騰訊)グループとは何者だろうか。チャットアプリ「WeChat」を知る人は多いが、その実態を知る人は少ない。

 同社は、香港証券取引所に上場する持株会社で、中国の広東省深セン市に本拠を置く。傘下にインターネット関連の子会社を持ち、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、インスタントメッセンジャー、Webホスティングサービスなどを提供する。

 2020年8月、アメリカ政府はテンセントとの取引を禁止すると公表した(注:実際には禁止に至らなかった)。トランプ大統領は、「このデータ収集によって中国共産党がアメリカ国民の個人情報や機密情報の入手が可能になる恐れがある」と指摘した。取引禁止になれば、WeChatの利用が禁止されるため在米中国人の間に衝撃が走った。

 一例だが、アメリカのメディアは、中国人産業スパイがWeChatを使い中国国内の同僚と連絡を取り、「中国軍によるアメリカ軍軍事戦略データの解読とリスク評価」に関する研究論文について議論していたと報道し、WeChatが連絡ツールとして使用されていたことが明るみに出た。