暴力シーンはエグすぎる

「権力に告ぐ」

 社会派の映画では、チョン・ジヨン監督の「権力に告ぐ」(2020)も見ごたえがある。「韓国最大の金融スキャンダル」といわれる事件に、ひとり敢然と立ち向かった下級検事の闘いを描いたものである。やはり社会派の映画が韓国映画では一番である。

 暴力映画・犯罪映画も多く作られている。これまた衝撃的であった。韓国映画の暴力シーンは尋常ではない。北野武監督の「アウトレイジ」が可愛く見えるほどである。チョン・ビョンギル監督の「殺人の告白」(2013)、キム・テギュン監督の「暗数殺人」(2020)、キム・ソンス監督の「アシュラ」(2017)、カン・ユンソン監督の「犯罪都市」(2018)が印象に残っている。

 たとえば欧米の映画「キックアス」や「キングスマン」では、殺人はある種スポーツみたいに描かれていて、むしろ爽快感さえあるのだが、韓国のはエグすぎる。ひたすら凄惨で殺伐としているのだ。ピストルでやたら撃ち殺すわ、逆手にもった短刀でグサグサ刺すわで、血が噴き出る。

 特徴的なのは頻繁に手斧が出てくることである。なぜ手斧が重宝されるのかわからない。敵が何十人いようと主人公は無敵。撃たれ、刺されても不死。しかし、さすがに見続けていると飽きてくる。また犯罪に臓器売買が多い。

 ナ・ホンジン監督の「チェイサー」(2009)に、この映画を絶賛している日本の監督の名前がずらずらと出てくるが、そんなことをしている場合ではあるまい。韓国の監督はほとんど自分で脚本を書いている。漫画に頼り切っている日本の監督はすこしは見習ったほうがいい。

 俳優にしてもそうだ。「殺人の告白」「暗数殺人」「チェイサー」の犯人役の若手俳優がじつに気色悪くてうまい。きれいな顔の女優や二枚目の男優はみなおなじような顔に見えるのだが、それ以外の俳優は魅力的である。イ・ウォンテ監督の「悪人伝」(2020)の主演のマ・ドンソクはまあ悪い顔をしているが、日本でいえば昔の山本麟一みたいな俳優で、いまの日本ではほぼ絶滅した。せいぜい塩見三省がいるくらいか。

なぜ犯罪映画が多いのだろうか

 なぜ韓国映画に犯罪映画が多いのか。ウィキペディアの「大韓民国」には驚く記述がある。もしその記述を信じるとするなら、「韓国の治安は国際的にはいいほうとされるが、殺人・強姦・強盗などの凶悪犯罪を含む犯罪発生率」は「日本の3倍以上、殺人は2.4倍、強姦わいせつ事件は5.8倍という統計データがある」ということだ。

 また「韓国の警察庁の発表によると(中略)2013年の強姦事件2691件は10万人あたりの発生率は日本の約5倍」ということである。さらに「韓国女性の半数が性犯罪に遭遇している(2012年調査)ことから男性から女性への性犯罪が日常茶飯事であるとされて」おり、「特に未成年者による性犯罪が多く」、「強姦事件は日本の10倍、アメリカの2倍(人口10万人あたり)」である、と韓国社会の驚くべき一面があきらかにされている。

 韓国という国は依然として、よくわからないところがある。警察、検察、軍隊、裁判所といった組織に上下関係があるのはふつうだが、映画のなかでは上の者が思い切り威張り散らすのである。儒教道徳が強い韓国では上下関係が厳しいとはよくいわれることだ。しかし、手を挙げたり、怒鳴り散らしたりするのはちょっと異常である。徴兵制があるのも、なにか関係があるのかもしれない。

 韓国映画の実力はわかった。日本映画以上に創意も熱も気概もある。韓国に対するわたしの偏見は減少した。反日運動はこれからもあるだろう。徴用工問題がまたくすぶっている。しかし多くの国の人がそうであるように、ふつうの人々は常識的な人々であろう。

 2018年平昌(ピョンチャン)冬季五輪のスピ-ドスケート女子500mで、金と銀を分けた小平奈緒と李相花(イ・サンファ)の美しい友情が明らかになったように、やはりこっちの在り方のほうが正しいのである。