オートファジーに関わるタンパク質はたくさんあります。今では30種類以上見つかっています。それぞれ役割が違います。その中に珍しい働きをするタンパク質があります。「ルビコン」といいます。

 それまでに見つかっていたタンパク質は、主にオートファジーが機能するのに必要なタンパク質でしたが、このルビコンは正反対です。オートファジーが起こりすぎないようにします。いわば、オートファジーのブレーキ役です。

 ルビコン以外にもブレーキタンパク質は見つかっていますが、少ないです。このルビコンは私の研究室で2009年に見つかりました。おもしろいのは、単細胞生物である酵母にはルビコンがありません。進化の間に新たに生じたタンパク質だということがわかります。

脂っこいものを食べるとルビコンが増える

 ルビコンは、じつは、人間の未来の鍵を握るかもしれないタンパク質なのです。

 私たちがどんな実験をしたかというと、まず、マウスに4カ月間にわたり高脂肪食を与え続けました。毎日、フライドチキンを食べさせるような状況です。当然、肝臓は脂肪肝になります。顕微鏡でのぞくと、マウスの肝臓の細胞には脂肪滴と呼ばれる、脂肪の塊で丸い大きいものがたくさんできていました。そして、オートファジーの働きの低下とルビコンの増加も同時に確認されました。

 この実験で「高脂肪食を食べると肝臓のルビコンが増えて、オートファジーが働かなくなって脂肪肝になる」ことはまずわかりました。

 次の実験では、マウスの肝臓の、ルビコンの遺伝子だけを破壊しました。そうすると、肝臓のルビコンがないマウスがつくれます。

 このマウスは、高脂肪食を食べさせてもオートファジーの働きは減りませんでした。これでひとつめの因果関係が明らかになりました。高脂肪食を食べたらオートファジーの働きが悪くなったのは、ブレーキ役のルビコンが増えたせいでした。

 しかも、このマウスの肝臓はまったく肥大せず、脂肪滴の大きさと数も正常でした。とてもクリアな結果でした。これでふたつめの因果関係も証明できました。脂肪肝もルビコンが原因だったのです。

 オートファジーが働かなくなったことと脂肪肝の因果関係も、別の実験で確かめられました。オートファジーが働かなかったことがなぜ脂肪肝の原因になるかはまだわかりません。ただ、脂肪滴をオートファジーが分解するという報告があるので、分解ができなくなったせいかもしれません。