石破茂農林水産相が大胆な農政改革の実現を目指し、突き進んでいる。焦点は、コメの生産調整(減反)政策の抜本的な見直し。米価下落防止を目的とした従来方針を大転換し、価格下落を前提とする政策に切り替えたい意向だ。これに対し、自民党農林族は「米価が急落すれば、農村は大混乱に陥る」と猛反発、両者が激しく火花を散らしている。
内閣支持率の低迷に苦悩する麻生太郎首相は、農政改革で政権浮揚を図りたい意向とされ、政府・与党内では石破氏の数少ない有力な援軍だ。しかし、「後ろ盾」になるどころか、度重なる失言で党内求心力が一段と低下している。農政通の中川昭一前財務・金融相が「もうろう会見」で引責辞任したことも、巨額の財源確保が不可欠の「石破改革」には大きな痛手となり、改革の先行きに不透明感が増している。
「5年先、10年先、20年先に持続可能性はあるのか」。石破氏は国内農業の存続に強い危機感を抱く。農業従事者の約6割は65歳以上が占め、高齢化が加速している。農地として未利用の「耕作放棄地」は約39万ヘクタールまで拡大し、埼玉県の面積に匹敵する。2005年度の全国農業者所得は約3.4兆円にすぎず、1990年(約6.1兆円)からほぼ半減。2007年度の食料自給率(カロリーベース)は先進国最低の40%にとどまり、1965年度の73%から大幅に低下している。
とりわけ、石破氏が問題視するのが減反政策。コメの生産過剰を背景に、1971年に本格導入された。政府のコメ買い入れを原則とする食管制度の下、麦や大豆などへの転作奨励金でコメの生産削減へ誘導し、政府の負担軽減を目指した。
1995年の食管制度廃止後は、コメ余りを避けて米価をできるだけ高く維持する「政府公認の価格カルテル」に減反政策の目的が変質した。独占禁止法の例外として「本来よりも高いコメ」を買わされる消費者が犠牲となり、農家の生計を支援してきたわけだ。現在も年1500億~2000億円の奨励金を投じており、1971年以来の財政負担は累計約7兆円に及ぶ。
しかしピークに比べると、水田面積の約4割がコメ以外に転作済み。後継者不足による高齢化が耕作放棄地の拡大を促し、生産者側には「もはや減反は限界」との見方が強い。
コメ農家約250万人のうち、減反参加者はその7割程度。3割を占める不参加者は自前の販路を確保し、コメを自由に作っている。それなのに、減反参加者の生産抑制で米価維持効果の恩恵を享受しており、農家の間では不公平感が高まっている。
石破氏、米価維持政策を放棄
このため、石破氏は米価維持にこだわらず、政策転換を検討している。減反に加わるかどうかの判断を、農家に委ねる「選択制」導入が柱となる。実現すれば、減反不参加者のコメ増産が米価下落を促すとみられる。減反参加者には下落に応じて所得補償するが、不参加者には講じない。
これにより、減反参加者の不公平感を払拭する一方で、不参加者の経営の自由度を高める。また、高いコメを買わされてきた消費者が安く購入できるようにし、コメの消費拡大も目指す。