赤信号みんなで渡れば怖くない?

 赤信号、みんなで渡れば怖くない──。いまや「世界のキタノ」となった北野武が約30年前のツービート時代に流行させたギャグを久々に思い出した。

 「超党派で財政健全化検討会議をつくり、建設的な議論を共に進めたい」──。新首相となった菅直人は財政再建の必要性を訴え、消費税を含む税制改革議論への参加を野党に呼び掛けたが、その心境を代弁すれば、まさに「赤信号、一人で渡るのは怖いよう~!みんなで一緒に渡ろうよ~!」なのだ。

 もちろん、できもしない目標ばかりを並べ立てた鳩山由紀夫政権時代から現実路線への軌道修正は素直に歓迎したい。しかし、本気で野党を引きずり込む気なら、まずは自らの無責任野党時代を総括するところから始めるべきだ。(文中敬称略)

漸く現実を直視したのか?

菅新首相が記者会見、「日本をもっと元気のいい国に」

財政再建と経済成長を一体的に行う「第三の道」を打ち出したが・・・〔AFPBB News

 菅は従来の公共事業や規制改革による経済活性化ではなく、「第三の道」として消費税収を社会保障分野に回す考えも示した。参院選マニフェスト(政権公約)にも消費税を含む税制改革の方針が盛り込まれる公算だ。

 確かに余程の楽天家でない限り、今の財政状況を放置してよいとは思わないだろう。2010年度予算では、子ども手当などで歳出規模が膨らんだ結果、税収37兆円を大きく上回る44兆円もの国債を発行する。国・地方自治体の債務残高は862兆円と、まったく返済のメドの立たない数値となっている。

 年金、医療、介護などの社会保障関連費は公共事業関係の5倍相当の27兆円台。しかも高齢化に伴い、何もしなくても社会保障費は毎年1兆円ずつ増えるため、いくら公共事業費や公務員人件費を削っても、財源確保は一段と厳しくなる。

日本の高齢者、100歳以上が4万人突破

高齢化に伴い、新たな施策を導入しなくても、社会保障費は毎年1兆円ずつ増えていく〔AFPBB News

 2009年の衆院選マニフェストに掲げた「無駄の排除による財源確保」も、夢物語だったことが証明された。鳩山は「特別会計を含めて20兆円をカットできる」と豪語していたが、あれだけ派手にショーアップした「事業仕分け」で捻出できた財源は、たった1兆円だ。

 さすがに現実の厳しさを目の当たりにして、菅は2010年1月の財務相就任後、消費税を含む税制改革に前向きな姿勢を示し始めた。「コンクリートから人へ」という掛け声だけでは増大する社会保障費を確保できないことに、漸く気付いたのだ。