一晩で焚く八千枚の乳木(護摩木)。1本1本に祈願を込め、真言を唱えながらくべていく

 インドでは今でも多くのサドゥ(行者・苦行僧)が苦行に挑み、仏教の開祖である釈迦もまた覚りに至る直前まで苦行に身を挺した。

 なぜ、求道者は苦行に励むのか――。

 八千枚護摩行、正しくは焼八千枚護摩供は、真言密教最大の荒行である。八千枚とは護摩行で火にくべる護摩木の数。

 天台宗でいうなら「千日回峰行」に相当する荒行と評され、熱心に挑む真言行者でも生涯に1回成満できるかどうかの苦行といわれる。

 焼八千枚護摩供は『虚空蔵求聞持法(虚空蔵菩薩を本尊 とし、その真言を100万遍唱えることで記憶力増進につながる修法。空海が高知県室戸岬で実践)』に並ぶ重要な秘法である。

 この秘法の典拠は不空三蔵訳の『不動立印儀軌(ふどうりゅういんぎき)』(正式には『金剛手光明灌頂経最勝立印聖無動尊大威怒王念誦儀軌法品』)による。

 不空三蔵は弘法大師空海に密教の根本原理である胎蔵界、金剛界の教えを授けた恵果和上の師匠にあたる。

 この『不動立印儀軌』の一節に焼八千枚護摩供の霊験が記されている。

「この秘法を行うことにより、比べるもののないほどの霊験がつき、一切のことが成就する法門」とある。

 また、この法を修すれば『験法の成ぜんとする者は、よく樹枝を摧折しよく飛鳥を墜落し、河水をよく竭せしめ、陂池を枯渇せしめ、よく水を逆流せしめ、よく山を移し及び動ぜじめ、諸々の外道の呪術力を制止して行わざらしむ』とある。