WHOのテドロス事務局長は記者会見で、インターネット上で3カ月前から継続的に人種差別的な中傷を受けていることを明らかにし、「攻撃は台湾からだった。台湾の外交部(外務省に相当)は知っていたにもかかわらず、何ら対処しなかったばかりか、逆に私を批判し始めた」などと主張。

テドロス氏の主張に台湾当局は「根拠なし」

 これに対し、台湾の捜査機関である法務部(法務省)調査局は同10日の記者会見で、台湾から中傷が行われたという指摘に対し、「根拠は見つかっていない」と反論。テドロス氏の会見後、ツイッター上では、「台湾人として、こうした悪意ある方法でテドロス氏を攻撃したことを大変恥ずかしく思う」「台湾人を代表してテドロス氏に謝罪し、許しを乞う」といった内容のツイートが100回以上発信されたが、同調査局では、いずれも中国に拠点を置くアカウントから発せられ、中国人ユーザーの間で拡散されたとみられるとしており、同局の担当者は、「言葉遣いの類似などから容易にフェイク(偽)だと見破ることができる」などと解説している。

 同じテドロス氏の発言に対し、台湾では蔡英文総統も9日にフェイスブックで反論。「長年、国際組織から排除されている台湾は、誰よりも差別と孤立の味を知っている」とし、テドロス事務局長に「台湾に来てもらい、差別を受けつつも国際社会に貢献しようとして取り組んでいる姿を見てほしい」などと発信している。

「台湾から人種差別的な中傷を受けている」と発言し出したテドロス事務局長(提供:Christopher Black/WHO/ロイター/アフロ)

 中国湖北省武漢市に端を発した今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の懸念のなか、WHOは、ヒトからヒトへの感染について1月20日になってようやく公式に認めたが、台湾の陳時中・福利衛生部長(厚生労働相)も4月11日に記者会見で、台湾が昨年(2019年)12月31日の段階ですでにWHOに、「中国・武漢で特殊な肺炎が発生し、患者が隔離治療を受けている」との情報を伝達し、警戒を呼びかけていたことを公表している。台湾ではこれ以降、入境時の検疫を強化しており、厳格な水際防疫を展開。死者を6人、累計感染件数も393件に抑え、4月14日には新たな感染確認件数をゼロに抑え込んだ。こうしたなか、台湾の陳建仁副総統も、武漢での発生当初、情報を隠蔽したとされる中国と、WHOの対応の遅れを問題視していた。

 テドロス氏は、中国から巨額の投資を受けているエチオピアの元保健相でもあり、WHOの前任事務局長だった香港のマーガレット・チャン女史の後任選びの際、中国が後押ししたとされている。

 台湾に限らず、今回の新型ウイルスの感染拡大への対処で国際社会は、テドロス氏の姿勢が「中国寄り」で、「WHOは政治的中立性が保てていない」とする厳しい視線を投げかけており、日本でも麻生太郎副首相兼財務相が「WHO(ワールド・ヘルス・オーガナイゼーション)ではなく、CHO(チャイニーズ・ヘルス・オーガナイゼーション)ではないか」と揶揄されていると指摘している。

 テドロス事務局長の辞任を求めるため、米国で立ち上げられたインターネットサイト「チェンジ・ドット・オーグ」(Change.org)で行われている署名活動では、4月15日午後までに、95万人以上から賛同する署名が寄せられており、発起人らは「事態を過小評価していた」などと、WHOの政治的中立に疑念を示し、「テドロス氏は客観的調査をせず、中国政府が報告する死者、感染者数をうのみにした」と批判していた。

 米国でも、与党・共和党を中心にWHOへの批判が強く、テドロス氏の事務局長辞任や、WHOと中国の関係についての調査を求める声もあがっており、トランプ米大統領は4月10日の記者会見で、WHOに関し、「われわれは中国よりも10倍以上の資金を拠出しているが、WHOは非常に中国寄りだ。不適切で、米国民にとって公平ではない」などとWHOを批判。14日には、WHOが今回の対応をする間、検証拠出金を停止すると発表。テドロス氏側は「ウイルスを政治問題化しないでほしい」などと訴えていた。