JBpressへの寄稿では、いつも中国に関する独自の情報と深い洞察を提供してくれている加藤嘉一さん。
北京大学の研究員としても活躍する加藤さんが去る2月に帰国された折、JBpress編集部が中国社会の制度的、心理的な問題と現状について聞いた。
「国進民退」 経済成長の恩恵が国民に及んでいない
―― 中国が今まさに直面している問題として、まずはインフレについて伺いたいのですが。
加藤 インフレは深刻な問題です。地下鉄の料金など公共のものは安いのですが、消費者物価は食料品を含め、どんどん上がっています。特に不動産ですね。普通の人は買えませんし、それどころか借りるのも難しい状況です。
中国におけるインフレ、バブルの問題は、社会主義経済体制の中でうまく抑えられると思うんです。例えば、不動産融資の制限とか、2軒目以降は頭金を60%にするとか、中央政府も色々と策は打っています。
ただ、それは一部の投機家に向けたものであって、12.8億人の一般国民にしてみればあまり関係がない。一生懸命勉強して仕事もしているのに、モノの値段が上がって生活が圧迫される。普通の人は一体何が起きているのか分からぬまま、ただ戸惑っているというのが実情だと思います。
―― 国の経済は急成長しているのに、必ずしも国民は潤っていない・・・。
加藤 それで今よく言われるのは「国進民退」という言葉です。つまり「国が進む、民が退く」ということ。GDPの伸びに国民が手にする収入の伸びが追いついていないんですね。
国の富が民に分配されていないだけでなく、年金などの社会保障制度もあるのやらないのやら・・・という現状。すべては自己責任、国にもだれにも頼れないという不安感が広がっています。