前編(「福島の事故が顕在化させた、電力産業の大リスク」)では、福島第一原子力発電所放射能漏洩事故が露呈した日本の電力供給システムの特異性とエネルギー企業の「資産の質」の重要性について述べました。

 後編ではエネルギー企業の「資産の拡大」にスポットをあて、メキシコ湾で発生した原油流出事故が明らかにしたオイルメジャーの「資産拡大」事業戦略の限界について分析します。

 そして、最後に福島、中東でそれぞれ展開されている深刻なエネルギー問題によって見直しを迫られている日本のエネルギー政策について考察します。

なぜメキシコ湾原油流出事故が発生したのか?

米原油流出事故、「ほぼ確実に防止できた」 大統領委

メキシコ湾で原油流出事故を起こしたBPの石油掘削施設〔AFPBB News

 2010年4月20日にメキシコ湾の深海1500メートルで掘削作業を行っていたディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)石油プラットフォームが爆発し、340万バレル(4100万リットル)の原油が海底井から海へ噴出しました。 

 この史上最悪の原油流出事故を引き起こしたBPは事故対策費用、米国政府への補償委託金を含め320億ドル(2兆5600億円)を支払う結果となったことは、記憶に新しいところです。

 この事故は海洋汚染の深刻さに加え、自分たちが日常何気なく使っているガソリンが1500メートルの海底から供給されているという事実を米国国民に知らしめ、大きなショックを与えました。

 人命・環境リスクを冒してまで、このような海底奥深く行かないと既に石油需要に追いつけないという事実がある一方で、BPのようなオイルメジャーとしても大きなリスクを取ってでも未開の地(フロンティア)に突き進み、新たな石油・ガス資源を発見しなければならない「事情」があるのです。

 その「事情」がメキシコ湾原油流出事故を引き起こした根本原因だと考えます。

オイルメジャーの事情

 オイルメジャーにとって一番重要な経営指標は何か? 読者の皆さんはご存じでしょうか。

 オイルメジャーの企業分析でウォールストリートのアナリストたちが最も注目するのは、投下資本利益率(ROCE:Return on Capital Employed)など一般的な財務指標ではありません。それは、リザーブ・リプレイスメント・レシオ(Reserve Replacement Ratio)と呼ばれる指標です。