未曾有の地震・津波による東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏洩事故、中東諸国の民衆デモによる原油供給不安、BPによるメキシコ湾原油流出事故と、これらエネルギー産業を根底から揺るがす大きな事故がわずか1年足らずのうちに発生しました。
まずは東日本大震災で被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。
福島、中東、メキシコ湾、それぞれ世界の別々の場所で発生したマイルストーン的な出来事は、現代エネルギー産業の抱える課題を浮き彫りにしたと同時に、日本のエネルギー政策の見直しを迫っています。
本稿は全編と後編の2回にわたり、これら事故が発生した本質的な原因を分析しつつ、エネルギー企業がつきつけられた課題を検証すると同時に、新しい日本のエネルギー政策の在り方について提言を試みます。
崩壊した原子力の安全神話
地震大国日本で原子力の安全性確保を担当する政府機関である原子力安全・保安院や事業者の電力会社は、日本の原子力発電所は起こり得る規模の地震を“想定”したうえで、万全な耐震設計と放射能漏れへの多重防護が施されているので、安全性に問題はないと主張し続けてきました。
この日本原子力の安全神話は、関係機関の“想定”を超えた地震災害が発生し、脆くも崩壊しました。しかも事故の規模と被害は甚大で、原子力事故の度合いを評価する国際尺度では、米国スリーマイル島原発事故(レベル5)を超え、レベル6以上は確実視されています(最も深刻な事故レベルはチェルノブイリ原発事故が記録したレベル7)。
事故発生から3週間以上経った今も事態の収束の目途は全く立っておらず、地域住民の方々のみならず、多くの日本国民が目に見えない放射能という有害物質の恐怖におびえる生活を日々強いられています。
日本の電力供給システムの異質性
原子力の安全神話の崩壊とともに、今回の大災害によって日本の電力供給システムの脆弱性が明らかになりました。この狭い国土で、日本は2つの異なる電源周波数を採用しています。そもそも1つの国で異なった電源周波数を持つことは、世界的に見ても極めて異例です。
北海道電力、東北電力、東京電力の東日本地域は50ヘルツ(Hz)を採用する一方で、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の西日本地域は60Hzを採用しています。
発端は明治時代までさかのぼり、東京電燈が50Hz仕様のドイツAEG社製発電機を購入したのに対抗し、大阪電燈が60Hz仕様の米国GE社製発電機を購入したのをきっかけに、それぞれ東日本、西日本で異なる周波数が集約されたとされています。