本論は、「国家安全保障基本法」という新しい法律のすみやかな制定を提案するものである。そこで、まず、「国家安全保障基本法」および国家安全保障(National Security)とは何かについて、かいつまんで説明しよう。

「国家安全保障基本法」および国家安全保障とは

 「国家安全保障基本法」とは、「我が国の安全保障のあり方とその基本方針を定め、安全保障・防衛関係法令および政策に大きな網を被せる包括的な基本法」のことである。

 そして、国家安全保障とは、文字通り、外部からの侵略等に対して、国家の生存を確保し、国家および国民の安全を保障することである。

 この際、外敵に対する国防(National Defense)が最大の安全保障を形成するが、その主体となる軍事(力)のみならず、外交(力)、経済(力)、内政あるいは食料・資源エンネルギーの確保など国家の諸施策あるいは諸力を総合的に運用してその目的を達成するものである。

 すなわち、国家安全保障の概念には、共同防衛(軍事同盟)、経済協力、国際平和協力活動、軍備管理あるいは国内の民生安定、国民保護(民間防衛)、国防インフラの整備、防衛産業・技術基盤の維持、備蓄など広範な内容が含まれる。

 上記の通り、国家安全保障(国家の安全を保障=secureすること)と国防(国家を防衛=defendすること)とは、極めて類似した、また関係の深い言葉である。

 両者とも、本来軍事的なものであり、ほぼ同様の意義を有しているが、前者がより非軍事的脅威へ対象を広げ、軍事以外の領域においても安全保障に必要な環境や基盤を整備し、総合的施策を通じて国家の安全を確保しようと考える点で、後者に比し、やや広義の概念と言えよう。

 また、国家安全保障と国防は、紛争の未然防止あるいは抑止、紛争への対処とその終結、そして平和の回復の各局面を対象とするが、前者はやや紛争の未然防止あるいは抑止に、後者はやや紛争への対処とその終結に重きを置いていると言えよう。

 一方、現「国防の基本方針」(昭32年5月20日閣議決定)の中には、国防と国家安全保障(「国家の安全を保障するに必要な基盤」)の用語が混在していることからも分かるように、両者の厳格な使い分けはかえって一般国民の理解を損ねることになり、またその必要性もさほど認められない。