(藤 和彦:経済産業研究所 上席研究員)
米WTI原油先物価格は6カ月ぶりの高値で推移している。
4月22日、米国政府がイラン産原油の禁輸措置に関する適用除外措置を5月1日に撤廃することを決定し、世界の原油供給が逼迫するとの懸念が生じたためである。
市場の予想(段階的な禁止などの緩やかな展開)に反して全面禁輸を行う決定を下した米国政府には、「世界の石油市況は昨年(2018年)11月以降、好転している」との情勢分析がある。
足並みが揃わないイランへの対応
制裁前のイランの原油輸出量は日量250万バレル超だったが、4月には同100万バレル弱に減少している。米ホワイトハウスは「すべてのイラン産を代替できるよう、同盟国とともに即応する」とし、「サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)が世界の原油市場で供給をしっかりと確保していく」と強調した。
OPECは今年1月から協調減産を実施しているが、足元では目標の日量80万バレルを大きく超える水準の減産を行っている。中でもサウジアラビアは目標(日量32万バレル)の2倍以上の減産を行っていることから、短期間でイランの減産分をカバーできる能力を有している。
トランプ大統領からラブコールを受けたサウジアラビアは「原油供給の減少分を穴埋めする用意がある」との意向を表明したものの、「増産する前に、適用除外措置の終了が市場に与える影響を評価する方針だ」としている。
昨年11月に米国がイランに対する石油に関する制裁を開始した際に、サウジアラビアは米国の意向に従い、イランの減産分の穴埋めに動いた。だが、米国が制裁の一部免除を実施したことで、昨年末にかけて原油価格が急落した経緯がある。
今回もイラン産原油の輸入継続を希望している中国やインド、トルコなどが米国の制裁を回避する形でイラン産原油の調達を続ける可能性がある。