(福島 香織:ジャーナリスト)
中国の名門大学・清華大学法学院教授の許章潤が停職処分となって取り調べ中であることが3月末に明らかになった。習近平に対する批判文章をネットにあげたことなどが原因だ。
清華大学法治と人権研究センターの主任を務める許章潤は、2005年に中国全国十大傑出青年法学家として表彰されている。いわゆる良心的知識人の1人として、国内外で尊敬を集めてきた。
それが習近平に苦言を呈しただけで事実上の公職追放となれば、中国のアカデミズムに対する国際的信用を大きくそこないかねない。許章潤の処遇に対して、中国人知識人たちも沈黙しているわけにはいかない。
国民の8つの心配事と許章潤の8つの提言
問題となった許章潤の習近平批判文章は、「我らの目下の恐怖と期待」というタイトルで2018年7月に天則経済研究所のサイトに発表された。
要約すると、以下のような内容だ。
「国民全体が、国家の発展方向と個人の安全に不安を抱いている。その原因は近年来、いわゆるボトムライン、守らなければならない一線を超えていることだ。その一線とは、基本的治安、私有財産の保障や富を求める自由、市民の自由な生活、そして国家主席の任期制。特に4番目の国家主席の任期を2期10年とした制限を撤廃したことは、30年の改革開放の成果を帳消しにし、恐ろしい毛沢東時代に中国を戻すことになる。
庶民は8つの心配事がある。私有財産権は守られるのか、政治優先で経済を放棄するのか、階級闘争が始まるのか、米国などともめて鎖国時代に突入するのか、対外援助をやりすぎて国民の財布のひもを縛らせるのか、知識分子の思想改造を始めるのか、軍拡競争に突入し戦争でもやらかすのか、改革開放を終わらせるのか。