EU政治の心臓部は加盟国による合議と執行機関の欧州委員会だが、欧州議会もEUの意思決定過程では不可欠の機関である。そこで反EU勢力の力が増すことは、EU全体の機能不全を招きかねない

 マクロン氏は3月5日、EU加盟国の28のメディアに寄稿し、欧州が直面する危機に対処するための「抜本改革」を呼びかけた。その詳細は次稿に譲るとして、マクロン氏の行動は、欧州の運命を左右しうる極めて貴重な存在となりつつある。EUで独仏伊に次ぐ4番目の経済規模を誇り、EU予算の1割強を拠出してきた英国は、いずれEUを離脱する。イタリアは排外主義の極右「同盟」とポピュリスト政党「五つ星運動」の連立政権が「反EU」の牙を剥き、「親EU」のマクロン氏の足を引っ張るかのように「黄色いベスト運動」への支持を煽っている。求心力を体現してきたメルケル独首相は、与党党首の座を後進に譲り、影響力低下は隠せない。

 旧東欧に目を向ければ、ハンガリーやポーランド、ルーマニアといった国々では、政権が野党やメディア、市民団体を抑圧し、司法を統制するような反民主化・権威主義化に傾斜している。欧州全体が世界の勢力図で地盤沈下しつつある時代にあって、マクロン氏だけがEUを鼓舞する旗を振り、賛同者を募り続けているのだ。

マクロン氏もポピュリストか

 マクロン氏の立ち位置は、17年大統領選に勝利した時のそれと変わっていない。「反ナショナリズム」「左右の既成政党に属さない新たな政治勢力」「親EU」「親グローバリズム」は彼のブランドである。だが、「黄色いベスト」に直面して100億ユーロ超の財政出動を決め、その政策運営にポピュリスト的な側面が加わったのも事実だろう。

「仏企業や欧州のグローバル市場における競争力の向上やEU統合深化などの経済・外交課題にさえ取り組んでいればよく、人々の困窮にはあまり耳を貸さない」。そんな印象を仏国民が抱いたからこそ、「マクロンやめろ」の抗議デモは起きた。財政出動や対話集会は必要な路線修正といえる。

 だがその抗議デモは、完全には収束しそうにないばかりか、今や暴力的なイメージが先行しつつある。生活者集団を代弁するはずの「黄色いベスト」運動の参加者と、「破壊者たち」を切り離すため、フィリップ首相は18日、破壊者が混じったデモを禁じる方針を発表したうえで、警察幹部を更迭した。だが、それが真の「対策」となるのか、心許ない。