若い錦織圭選手の活躍や、一度引退した伊達公子選手の全豪オープン再挑戦などで、テニスが茶の間の話題を集めている。しかし、テニス人気はと言うと、長期低落傾向に歯止めがかからない。伊達選手の復活が取り沙汰されるのも、若い有能な選手がなかなか育ちにくくなっているからだろう。

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 かつてコートがあったはずの場所にはいつの間にかマンションが建ち並び、テニスができる場所は確実に減り続けている。少し古いデータになるが、社会経済生産性本部が編纂している『レジャー白書2008』によれば、2007年のテニス人口は570万人。1995年の1490万人から60%以上も減ってしまったことになる。

 かつてのテニスブームを担った40代半ば以降の人たちがスポーツ活動の中心をゴルフへと移してしまったことや、余暇の過ごし方が多様化したことなどが原因に考えられるが、このまま「衰退」させるにはもったいないスポーツである。

 メタボが気になる中年期に入ったビジネスリーダーにとって、テニスは手軽に楽しめるうえに、かなりの負荷の運動ができる。また、相手の打ったボールを打ち返すという単純に見えるゲームでありながら、極めて戦略性が高い。「頭脳」を要求されるスポーツでもある。その戦略性はビジネスの世界でも役立つ場合が多い。

 そこでテニスの衰退を憂うJBpressでは、1997年の全仏オープン混合ダブルスの優勝者である平木理化さん、学生時代から真剣にテニスに取り組んできた住商情報システムの阿部康行社長のご協力を得て、学会、産業界のリーダーをお招きして、テニス&経済談義をしていただくことにした。

 平木さんからはトッププロとして活躍していた時代の戦略的なお話、阿部社長やゲストの方には、テニスをどうビジネスに役立ててきたかなどについてお聞きする。1回目のゲストは東京大学の宮田秀明教授。宮田先生のご専門でもある全体最適とテニスについて議論していただいた。

テニスはまさしく情報戦

JBpress 皆さんお疲れ様でした。平木理化さんは現役を引退されてしばらく時間がたったとはいえ、持ち前の手首の柔らかさを生かした角度のある鋭いショットと、パワフルなストロークは健在です。

 いきなり元世界チャンピオンとテニスをすることになりましたが、宮田先生、平木さんと一緒にプレーされていかがでしたか。

宮田 秀明(みやた・ひであき)
東京大学 工学系研究科システム創成学専攻 教授。1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。石川島播磨重工業(現IHI)勤務を経て、94年より東京大学教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学など。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。テニスを始めたのは44歳になってから。
(写真:LiVE ONE、以下すべて)

宮田 私はふだんテニススクールに通っているんですが、スクールではいつも同じ人たちとプレーしてるんです。だから、こうやって外の世界の人たちとやるのは大いに刺激になりますね。いきなり平木さんとプレーするのは、刺激が大きすぎましたけど。

JBpress 阿部社長はこれまでにも平木さんと何度もプレーされているそうですが、今日はいつもより調子が良かったのではありませんか。

阿部 平木さんは我々のレベルに合わせてプレーしてくれたんですが、それでもボールの力強さが半端じゃない。

 ちょっと試してみようと、平木さんのフォアサイドを狙ってサーブを打ったのですが、やはりというか、サーブ以上に鋭く速いリターンが返ってきて、1歩も動けずリターンエースを取られてしまいました。

 平木さんが一番得意なところに打ったらどういうボールが返ってくるのか、怖いもの見たさに試してみたんです。でも肝試しなんてやるもんじゃないですね(笑)。やはり、テニスは相手の苦手なところに返すのが基本ですね。

 ところで、平木さんも現役時代は、やはり最初から相手の弱いところを狙ってずっと打ち続けていたのですか。