もし参謀の意見を聞かない指揮官がいたなら、敗軍の将となるのは間違いない。昨年9月の尖閣事案で、政府は中国の圧力に屈して船長を釈放した。この時、外務省には意見を求めるどころか知らせもしなかったという。
敗軍の将となった菅直人首相
船長を釈放しても中国政府は軟化せず、強硬一点張りの態度に驚いた日本政府は、官僚の助言には耳を貸さず、押っ取り刀で素人の政治家を特使として送り、中国に足元を見透かされた。
案の定、無様な対応で世界に醜態を晒し、菅直人首相は敗軍の将となった。
「政治主導」は今や流行語のようだ。だが国民が危うさを感じるのは「政治主導」と「官僚排除」を同一視している世の風潮だ。
官僚組織はシンクタンクであり専門家の「頭脳集団」である。その先駆的形態は軍隊の参謀組織にある。参謀組織はプロシアで発展した。
それまでは指揮官は自らの才能に依拠して指揮統率を行っていたが、ナポレオン戦争の頃から参謀組織の必要性が認められるようになった。軍隊規模の拡大と機能の多様化に伴って生ずる指揮官の複雑多岐にわたる各種業務を、適切に補佐する必要が出てきたのだ。
史上最強のシンクタンク、ドイツ参謀本部
平時は軍事研究を行い戦時においては指揮官を補佐する常設機関が、プロシア軍に採用された。参謀組織を育て、戦争ではその機能を駆使したモルトケ参謀総長は、宰相ビスマルクとの絶妙の政軍タッグにより普墺戦争、普仏戦争に短期完勝した。
参謀組織は一躍世界の注目を集めることになる。今日でも歴史上最強のシンクタンクは、プロシアのモルトケが育てたドイツ参謀本部だと言われる。
霞が関の官僚組織は、日本最大のシンクタンクであり最強の参謀本部である。これを使わない手はない。
官僚をバカ呼ばわりし、退けることで悦に浸っている政治家を見ると、有能な参謀を使いこなせない愚劣な指揮官を見るようで、哀れさを感じる。愚劣な高級指揮官は敵より怖いと言われる。