ベトナムのものづくりが揺れている。労働争議、ジョブホッピングの急増など、日系企業がその対応に苦慮する報告を聞く機会も多くなった。
この「揺れ」は、ベトナムのものづくりの現場を「ポスト中国」と捉える発想に問題があると、筆者は考えている。
いくつかの現地調査から見えてきたことは、日本のものづくり体質とベトナムの親和性の良さである。しかしながら、現地で苦慮する日系企業が増えているのはなぜか。以下では、そのギャップの背景を探ってみたい。
ベトナム拠点のポテンシャル
ハノイの日系自動車工場で、現地作業者の資質の高さがベトナムの魅力であると聞いた。手先が器用で真面目、職人気質など、評価は高い。技能教育や訓練もやりがいがあるようで、実際、技能レベルの高いワーカーが数多く育っている。定着率も高い。ハノイの日系自動車部品工場では、家庭の事情で離職するケース以外は、現地操業当初からの古参が辞めることはほとんどないという。
この工場でベトナム人に対して技能教育・訓練を行う一端を見せていただいたことがある。ベトナム拠点の位置づけを見極めた上で、作業者の資質が高いと見るや、惜しみなく資源を投入する姿勢がそこにあった。また、ホーチミンの日系テレビ工場でも10年選手が育ち、主戦力として現場の中核を担っていた。
ベトナムは南北で地域性の違いがあるという話もあるが、ベトナム全体として、現場では日本のものづくりの考え方を理解してもらいやすい。つまり、日本のものづくり体質の根付く土壌がベトナムにはある。
日本とベトナムの親和性は高い。例えば、ベトナムトヨタで誕生し、日本国内の工場にも導入された「GBL(グローバルボディライン)」というボディ溶接ラインがある。出発点はベトナム市場の規模や工場規模といったローカルな要因にあったが、現場ポテンシャルをうまく開花させたことが、その発想の現実化に繋がったのだと筆者は考えている。
「ポスト中国」という発想の落とし穴
ベトナムに限らず、国内外の日系工場の大半に「技能を大切にする風土を醸成」といったスローガンがある。技能を基軸とする現場育成思想が、ものづくり体質の麹となっている。ベトナムでこの麹は元気よく育ち、チームワーク・多能工で形作られた現場作業組織が「Q・C・D」(品質・コスト・納期)の各パフォーマンス向上に邁進する。
しかしながら、どうもベトナムの現場に良くない雑菌が増殖し、騒然とさせているようだ。雑菌とは、「ポスト中国」を意識した現場の空気である。
中国の次はベトナム、といった声がある。なぜ次はベトナムか。その背後にはベトナム人労働者の「低賃金」がある。