ヒッグス場のイメージ図。ILCの最大の目標は、ヒッグス粒子を研究することで、宇宙の仕組みを解明することにあるという。 Image by CERN.

 2030年。東北新幹線、一ノ関駅・水沢江刺駅間の走行中、こんな車内アナウンスが流れるかもしれない。

「ここから東にある北上山地にILC、国際リニアコライダーがございます。世界中から研究者が集まり、宇宙の謎を解明する研究が行われています」

 素粒子を研究するための新型加速器、国際リニアコライダー(ILC)。これを東北地方の北上山地に造ろうという計画がある。前編(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53356)では、素粒子研究とILC建設の目的を述べた。後編では、日本にILCを作る意義と現状、そのために私たち一人ひとりができることを紹介する。前編に引き続き、東京大学素粒子物理国際研究センター特任教授の山下了(やました・さとる)博士に詳しい話を聞いた。

ILCを造るなら日本だ

 誰もが思う疑問として、なぜILCを日本に、そして北上山地に造ろうとするのか。

 その疑問に答える前提として知っておくべきことは、ILCは世界に1つしか作れないということだ。山下氏は、「ILCの建設費は総額5000億円、運営費は年間300億円。これを世界で2つも3つも作るわけにはいきません。1つだけ作り、そこに世界中の研究者が集約して研究するのが現実的です」と言う。

 では、どの国が造るのか。2004年に国際将来加速器委員会(ICFA)によってILC計画が始まったとき、日本の他にもアメリカとヨーロッパも候補地として上がっていた。

 ところが、アメリカはかつて超伝導超大型加速器(SSC)建設を計画しておきながら建設予算の膨れ上がりや政権交代によって断念した過去があり、大型加速器を新たに造る雰囲気ができていない。