ビッグバンのイメージ図。このとき、私たちのいる宇宙が誕生したとされている。ILCの最大の目標は、宇宙の仕組みを解明することにあるという。 Image by ESO/M. Kornmesser, under CC BY 4.0.

「みんな、宇宙に最も近いところに行きたいんですよ」

 こう語るのは、東京大学素粒子物理国際研究センター特任教授の山下了(やました・さとる)博士。山下氏の言う「宇宙に最も近いところ」とは、天文台でも、ロケットの発射台でも、国際宇宙ステーションでもない。「素粒子」だ。

 素粒子は、あらゆる物質の最小単位である。私たちの体も地球も宇宙も、究極的には素粒子からできているといってよい。素粒子は17種類あると考えられており、2013年のノーベル物理学賞のテーマである「ヒッグス粒子」も素粒子のひとつだ。

 素粒子を研究する装置に「加速器」というものがある。そして今、新型加速器である「国際リニアコライダー(ILC)」を、日本の東北地方に造ろうとする計画がある。

 加速器で素粒子を研究すると何が分かるのか。なぜ日本にILCを造るのか。こういった疑問を今回、ILC誘致に長年携わっている山下氏にぶつけてきた。なお、「ぶつける」という言葉は加速器で重要なキーワードになるので、ぜひ心に留めながら先を読んでほしい。

 前編では、加速器で素粒子を研究する理由と方法、そして意外な波及効果を紹介する。後編では、日本にILCを造る意義と現状、そのために私たち一人ひとりができることを述べる。

素粒子が分かれば宇宙が分かる

 素粒子を研究する目的について、山下氏は「宇宙の始まり、自然の仕組みが分かるから」と単純明快に述べる。