「冷え込む冬はやっぱり温泉」──。

 今、おそらく10人中9人の人がこれに共感したはずだ。日本交通公社が行った旅行者調査では、「行ってみたい旅行」のトップは常に温泉旅行である。ずばり「温泉が好きですか」と質問すれば、48.7%が「とても好き」、39.6%が「好き」と答える。すなわち、日本人の9割近くは温泉が好きだ(日本交通公社『旅行者動向』より)。

 旅行雑誌はもちろん、そうでない雑誌でも温泉を特集した記事は多い。今月なら例えば『DIME(ダイム)』(1/20・2/3合併号)が「最旬 “極楽温泉&美食” の宿─若女将&若旦那が温泉宿をCHANGE」という記事を掲載、『月刊マンスリー・エム』(2009年1月号)では「やっぱり温泉」、『Hanako WEST』(2009年2月号)も「ゆるりほっこり冬温泉」といった具合だ。冬に限らず、書店に温泉特集をうたった雑誌が並ばない日はないのではないだろうか。

 それにもかかわらず、温泉地や温泉旅館を取り巻くニュースにはなぜか「再生」の2文字がつきまとう。日本人は「温泉好き」が多いのに、温泉地は観光客数の減少に悩み、旅館経営が苦しい。それはどうしてだろう。

温泉地は増えているが宿泊客は減少

 実は温泉に関連するデータの中で、右肩上がりに増えているものがある。温泉地数、そして温泉を利用した公衆浴場施設の数だ。

 日本の温泉地は、20年前に約2200カ所であったものが、2007年3月末には3150カ所へと増加した。また、温泉を使った日帰り入浴施設はこの20年間で2.7倍に増加し、7800軒に上っている(環境省調べ)。

 温泉観光地にとっては、競合する温泉地が増加するわけであり、経営環境は厳しさを増すことになる。実はこうした「量」だけでなく「質」の面でも、温泉観光地を取り巻く環境は大きく変化している。

 まずは、温泉地の客層の変化である。かつて主流だった団体旅行やバブル経済期の法人需要は、1990年代以降、目に見えて減少していった。そこで温泉観光地は「個人旅行、少人数グループ旅行への対応の遅れ」を問題とし、その対応に追われるようになった。

 「質」の面の問題はもう1つある。「日帰りで温泉に行く」というレジャーの台頭だ。このインパクトが温泉観光地に与えた影響の大きさは見落とせない。

 全国の市町村が一斉に温泉掘削に走ったのは、1988~89年の「ふるさと創生1億円」がきっかけだったと言われる。その後、日帰り温泉は各地で存在感を増し、特に都市部で進化を遂げた。楽しさのバリエーションを増やし、滞在時間を延ばすことに成功した所も少なくない。日帰り温泉はもはや一時のブームではなくなっている。20代の若者の中には「温泉と言えば日帰り」をイメージする人も現れている。