大学新卒初任給が54万2000円。「ほぉーっ」と、思わずため息が出てくる額である。

 日本経済団体連合会(経団連)が2010年3月に発表している「2009年6月度 定期賃金調査結果」(PDF)によれば大学新卒の標準者賃金が20万9697円というから、間違いなく破格の初任給だ。

 この高額初任給を提示したのは野村ホールディングス(HD)で、2010年8月に発表するや、「太っ腹」とマスコミが大きく取り上げ、ネット上でも大変な盛り上がりをみせた。「これくらい高額なら超氷河期でもがんばる」という新卒予定者もいたかもしれない。

 もちろん、そうそう現実は甘くない。とはいえ、誤報でもない。2011年4月に野村HDに入社が決まっている42名には54万2000円の初任給が約束されているからだ。

 「甘くない」とは、野村HDに入社する大学新卒者全員の初任給が破格なわけではないからだ。今年4月に同社への入社が決まっている大学新卒者は600名近くいるが、大半は先の経団連調査と同じくらいの初任給である。破格の初任給を約束されているのは、600名のうち42名だけでしかない。

世界で戦える人材を欲している野村HD

 なぜ、42名だけが高額初任給を受け取ることができるのか。それは、それなりの条件をクリアして採用されたからだ。その条件とは、高い専門性と英語能力試験「TOEIC」で860点以上という高いハードルのクリアだ。

 バイトに明け暮れる大学生活を送っていたのでは高い専門性など身につけられるはずがなく、日本的学校教育でしか英語を勉強したことがなければTOEICで860点以上など夢の夢である。

 それだけのハードルをクリアしたからこそ、高額初任給を受け取ることができるのだ。それでも、野村HDでは明らかにしていないが、応募者数は採用者数の7~8倍はあったと言われているので、それだけの条件をクリアする人材が少なからずいたということになる。日本の大学生も捨てたものではない。

 そこまでの初任給を野村HDが提示したのは、グローバル化に照準を合わせているからである。日本の証券会社としては最初に海外進出を果たしたものの、いまだにローカル証券的ポジションから抜け出せていないのが同社の現実だ。

 2008年に経営破綻したリーマン・ブラザーズを買収し、一気に8000人近い外国人を採用したものの、グローバルな戦いを展開していくには、まだまだ人材不足。野村HDとしてグローバル化を進めるためには、外国人の力に頼るだけでなく、その戦略を推し進めていけるだけの力をもった日本人の存在も不可欠となる。そういう日本人の人材となれば、圧倒的に不足しているのだ。

人材をむざむざと外資に奪われないために

 「大学にいる頃から自分の歩む道を見定めて投資銀行業務や証券業務についての知識を身につけ、ビジネスで通用する実践的な語学力を学んできた学生は少なからずいるんです。しかし、そういう学生は日本の証券会社には入社しない。外資系の投資銀行などに就職してしまうんですよ」と、大手証券会社の幹部はため息まじりに言う。