1 新防衛大綱と安全保障の基本
民主党政府は、2010年12月17日、新たな「防衛計画の大綱」(PDF)と「中期防衛力整備計画」(PDF)を閣議決定した。1976年に防衛大綱が決定されて以来、6年ぶり3回目の改定であった。
目次
- 1. 新防衛大綱と安全保障の基本
- 2. 日本の安全保障会議
- 3. 諸国の国家安全保障会議
- 4. 安倍構想の国家安全保障会議
- 5. 「新組織」の課題
日本の外交・安全保障政策は、これまで継続して自民党政府が担ってきており、今般決定された新防衛大綱は、安全保障政策が不明確であった民主党政府が策定したことから、その内容が注目されていたところである。
新防衛大綱は、日本の安全保障の基本理念として、次の3つを挙げている。
(1)日本に対する直接脅威の防止
(2)アジア太平洋地域の安全保障環境改善による脅威発生の予防
(3)世界平和と人間の安全保障確保への貢献
その基本方針としては、次の4つを掲げた。
(1)統合的かつ戦略的な取り組み
(2)従来の基盤的防衛力に代わる動的防衛力の構築
(3)日米同盟の深化と発展
(4)アジア太平洋地域における多層防衛など
自民党政府の基盤的防衛力構想、すなわち必要最小限度の防衛力の保持と武力紛争抑止のための日本領土全体への部隊配置構想は、民主党政府の動的防衛力構想、すなわち多様な事態や脅威に対して機動的に対処する構想へと転換された。
新大綱は、基本方針の「統合的かつ戦略的取り組み」として、情報収集と分析能力の向上、および国連PKO(平和維持活動)への参加のあり方の検討に加え、国家安全保障に関して首相へ助言する組織の設置を掲げている。
すなわち、安全保障会議を含む内閣の組織・機能・体制などを検証したうえで、国家安全保障政策に関し、閣僚間の政策調整と首相への助言などを行う組織を首相官邸に設置するとした。
安全保障会議や事態対処専門委員会など、既存の安全保障政策立案組織等を検証し、外交・安全保障政策を首相主導で総合的に策定する意思を表明したのであった。
日本は、外交・安全保障に関わる政策策定にあたり、外交・安全保障戦略を欠いているとの指摘がなされてきた。
新大綱で設置が構想された新組織の具体的内容は不明であるが、諸外国に設置されている国家安全保障会議に類似する組織が想定される。
民主党政府は、新組織と国家戦略室との関係を明らかにしていないが、国家戦略と外交・安全保障戦略との連携を意図して外交・安全保障政策を策定する意図であれば、この決定は高く評価されよう。