米国の首都ワシントンでも、東京でも、これまでアジア情勢を考える時には、「東アジア」や「北東アジア」という表現が最も頻繁に使われてきた。「東アジアでの安全保障は・・・」とか「北東アジアでの軍事バランスは・・・」といった調子の表現である。

 ふつう日本で「東アジア」と言えば、日本、中国、韓国、北朝鮮などの国がその範囲内だった。一方、米国で言う「東アジア」には、タイやベトナム、インドネシアなど東南アジアが含まれる場合も多かった。

「アジア」を広く捉え直そうとしている米国

 しかし、ワシントンでは最近になって、この「東アジア」という概念自体が現実に沿わないとする思考法が登場してきた。

 アジアを考える時に、もう東アジアとか北東アジアとか、あるいは東南アジアと区分せずに、ずっと広い領域を1つの地域として捉えようという発想である。

 この発想は、日本にとってもより現実的であり、実利的だと言える。

 これまで日本国内では、「アジア」と言うとまず東アジア、具体的には中国と朝鮮半島だけを念頭に浮かべる反応がほとんどだった。それ以外のアジアを対象とする論議は少なかった。「日本とアジアとの関係」とか「日本の対アジア政策」と言うと、もっぱら中国と朝鮮半島だけを対象にして考えるケースがほとんどだったのだ。

 しかし、現実にはアジアは中国、韓国、北朝鮮だけでなく、インドやインドネシア、さらにはタイやフィリピンという諸国も含んでいる。

 この点は、米国から見ても同様だと言える。アジアは日本や中国だけではないのだから、もっと広く捉えて、自国との関係を考えようという動きが現れてきている。

インド洋、太平洋が世界の中で最も重要な地域に

 こうした背景から2010年12月にワシントンで打ち出されたのが、「インド洋・太平洋の共通地域」(Indo-Pacific Commons)という概念だった。

 米国にとって重要なのは、インド洋と太平洋の広大な地域だという考え方である。その地域には日本、朝鮮半島、中国、東南アジア諸国、インド、パキスタンからオーストラリア、ニュージーランドなどの諸国までが含まれる。

 この概念を正面から提起したのはワシントンの大手政策研究機関「AEI」だった。AEIは12月中旬に公表した「インド洋・太平洋の共通地域の安全保障」と題する報告で、太平洋からインド洋にかけての、この広大な地域の将来を論じたのだった。