11月28日、ハイチで大統領選挙が行われた。もともと政治腐敗が日常化しており、予想されていたこととはいえ多くの不正が発覚、地震、洪水と自然災害が続いたカリブの小国に、さらなる不安定要素が上積みされることになってしまった。
世界では今でも年間5000人がコレラで死ぬ
選挙前からコレラ感染が国中に拡大しており、選挙どころではないという国民も少なからずいて、タイミングも悪かった。
日本では年間数十人程度の輸入感染症に過ぎず関心の少ないコレラだが、世界ではいまだ年間5000人前後の死者を数える。
今もナイジェリアでは流行が続いているし、ロバート・ムガベ大統領の暴政から、年間2億%のインフレという破綻状態に陥ってしまった2008年のジンバブエでも蔓延していたことは記憶に新しい。
結局、アフリカをはじめとした貧困に喘ぐ地域に罹患者は集中しており、劣悪な衛生環境がその主たる要因である。
街中にある昔ながらの食料市場では、ハエのたかる売れ残りや食べかすの山から汚水が市場内へと流れ込み、豚やネズミもウロチョロ。
そんな様子を見れば、我々なら缶詰か火を通した物以外は絶対に口にしなくなるが、地元住民は当然そのまま食べているわけで、衛生概念が希薄であることも大きな原因となっている。
もっとも、そんな衛生環境への意識も、現代だからこそ存在するのであって、20世紀初めまでは、欧米でも伝染病の恐怖は常に存在していた。
そんな様が分かるのがルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』(1971)。グスタフ・マーラーの交響曲第5番が雰囲気を彩る作品の舞台「水の都」ベニスではコレラが蔓延している。
コレラ菌に汚染された水の流れる水路に囲まれてしまった街では、消毒液がまかれ、至る所に火が放たれているが、人々にはそれ以上なすすべがない。