“バター利権”を巡る国際貿易戦争の火蓋が切られた――。
初来日したニュージーランド(NZ)のビル・イングリッシュ首相は5月17日、安倍晋三首相と首脳会談。
米国離脱後初めて、21日ベトナムで開催されたTPP(環太平洋経済連携協定)閣僚会合を前にして、両首相は「両国が連携し、(米国抜きの)TPP11の早期実現を目指す」ことで一致した。
酪農大国で世界最大の乳製品輸出国のNZにとっては、輸出で競合する米国がTPPを離脱したことで関税撤廃の枠組みから外れ、急拡大する日本などアジア市場への乳製品などの輸出増がかえって期待できる。
TPP交渉で同床異夢の日本とニュージーランド
一方、日本もアジア地域での貿易ルールの改革が実現すれば、企業の海外進出が加速する大きなメリットが見込める。
しかし、日本とNZは「同床異夢」だ。
「TPP11の大筋合意を今年11月のベトナムでのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議までの締結を目指す」(TPP政府交渉関係者)とするが、本音のところはどうだろうか?
「交渉が最終盤になると、自国の要求をねじ込みたくなる。ある国が修正を求めれば、他の国も。結局、収拾がつかなくなる」(甘利明・元TPP担当相)のが通商交渉の常。
すでにベトナムやマレーシアは現行の合意に不満を示す上、チリ、ペルーはTPPの枠組でなく、中南米諸国で構成する「太平洋同盟」を中国、NZ、オーストラリア、インドなどを加えた自由貿易圏に拡大したい考えだ。
さらに、NZも米国が離脱を決めた当初、将来、米国は経済的影響力で中国にその地位を明け渡すだろうとの見方を示し、イングリッシュ首相が「中国主導のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に切り替えることができる」「TPP枠組みの魅力は、二国間協定(日本はNZとFTAを締結していない)」と発言するなど、NZの本音も見通せないのが実情だ。
特に、NZは2006年に発効したTPPの前身(P4協定)の原加盟4か国の1つで、これまでの交渉過程で発効を最優先にした妥協は絶対にしない、と強硬な姿勢を貫いてきた。その上、日本はTPP交渉でNZに猛攻撃を受け、辛酸を嘗(な)めさせられた悪夢を経験している。