多くの米海軍関係者たちは「2030年までには、アメリカ海軍は中国海軍に対して数的劣勢に陥ってしまう」と考えている。例えば、2020年までに中国海軍はイギリス海軍、ロシア海軍、海上自衛隊、インド海軍を完全に凌駕して世界第2の海軍の地位を得る。それとともに、兵力6000名近くの海兵隊(海軍陸戦隊)を世界中に送り込む、アメリカに次ぐ世界第2の水陸両用戦力をも保有することになる。

 そして2022年には、主力水上戦闘艦数において中国海軍はすでにアメリカ海軍を上回るとも推測されており、さらに2030年までには中国海軍の海軍部隊展開能力がアメリカ海軍のそれを確実に上回るとみられる。

 したがって、一刻も早く355隻あるいはそれ以上の規模の海軍を造り上げなければならない状況になっているのである。

現実的には困難な大海軍の構築

 しかしながら大海軍構築に賛成する立場の人々からも、はたして現実的に350隻あるいは355隻海軍を誕生させることができるのか? という疑問の声が上がっている。というのも、トランプ政権が打ち出している国防予算のレベルでは、速やかに多数の軍艦を建造していくことなど不可能だからだ。

 また、国防総省は、軍艦建造などの長期的な兵器調達計画の見通しを提示する『将来の国防計画』というレポートを提出できない状態に直面している。その大きな原因は、人事が遅れていることにある。つまり、マティス国防長官を直接補佐し、この種の長期計画の責任者たる国防副長官も、海軍の長である海軍長官もいまだに決定していないのだ(それだけでなく、国防総省の数多くの高官人事も決定していない)。

 さらに悪いことに、アメリカの軍艦建造能力が質的に低下しているという問題も大海軍構築に暗い影を投げかけている。今後アメリカ海軍も含めて世界の海軍で必要とされる小型水上戦闘艦の設計能力が、アメリカの軍艦建造メーカーに欠けており、海外のメーカーの助力を仰ぐ必要があるのではないか? と危惧している海軍関係者たちは少なくない。

艦艇設計能力の低下を露呈させたLCS-1フリーダム(左)とLCS-2インディペンデンス(右)