菅直人首相はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を検討するとした上で「食と農林漁業の再生推進本部」を設置し、自らその議長に就任した。農業改革を行うというのだ。

 政府が農業改革を言い出すのは、なにもこれが初めてではない。都市と農村の所得格差が目立ち始めた50年ほど前から、農業改革は何度も政治の舞台に上がっている。

 しかし、改革が上手くいったためしはない。上手くいかなかったからこそ、今になっても改革が口にされるのである。

 それでは、なぜ、農業改革は成功しないのであろうか。改革を口にする前に、まず、その理由を考えてみるべきであろう。過去を反省することなく、闇雲に改革のための組織を立ち上げたところで成功するはずがない。

 今回は、なぜ、農業改革が上手くいかないかについて考えてみたい。

コメ生産の規模拡大はなぜ進まなかったのか

 これまで議論されてきた農業改革とは、主に「コメ生産に関する制度」の改革と言ってよい。

 それは、生産性の向上を目指したものであった。より具体的には、農家1戸が生産するコメの量を増やすことによって生産費を下げ、海外のコメ生産に対抗しようとしたのだ。

 農家1戸が生産するコメの量を増やすためには、規模を拡大する必要があった。

 現在、日本には約251万ヘクタールの水田があるが、それを約140万戸の農家が耕している。1戸の平均は1.8ヘクタールほどでしかない。しかし、米国では1戸が200ヘクタールを耕作することも珍しくない。それに対抗するためには、せめてヨーロッパ並に数十ヘクタールを耕す農家をつくらなければならない。

 しかし、50戸の農家が1ヘクタールずつ農地を所有している農村で、1戸の農家が50ヘクタールを耕すとなると、49戸が離農することになる。農業を行わなくなった農家が都市に移り住むことになれば、農村の人口は減少する。

 規模拡大政策を行わなくとも、農村人口は減少し続けており、過疎化が大きな問題になっている。そのような状況の下で、規模拡大政策が歓迎されるはずもない。