90代の人々が現役のように活躍する時代がやって来た(写真はイメージ)

「90代現役」という時代がいよいよ始まった――。こんなことを実感させられるようになった。

 1つには、最近、90歳の人間たちが主人公となる映画を見て、時代の変化について考えさせられたことがある。『手紙は憶えている』というタイトルの、ドイツ・カナダの合作映画(2015年制作)だった。この映画は、主人公2人がともに90歳という設定である。私は和洋を問わず数えきれないほどの映画を見てきたが、主人公がいくら高齢でも90代というのは記憶がない。

『手紙は憶えている』は、ともに90歳の米国人男性が協力して復讐を果たすというストーリーだった。ゼブとマックスはともに第2次世界大戦中のアウシュビッツ収容所の生き残りである。2人とも愛する家族をナチス・ドイツの兵士に殺されていた。そのナチス兵士は身分を偽り、米国に逃れ、今も健在なのだという。

 最近、妻を亡くし、もう失うものがないゼブは、マックスとともに生涯の悲願を果たすことを決意する。それは、自分たちの家族の命を奪ったナチスの元兵士への復讐だ。だが、ゼブは認知症を患っており、ときおり記憶を失くしてしまう。一方のマックスは歩くことが困難だが、頭脳は明晰だった。そこで、この2人が連携して、米国やカナダに住む元兵士と思われる容疑者4人を探し出し追いつめていくというストーリーだ。

 老いと戦いながら元ナチスの兵士に復讐を企てようとする90歳の2人の男の姿は、鬼気迫るものがあった。2人が計画しているのは“殺人”である。映画とはいえ、やはり現代社会が反映されているのだろう。90代の老人が殺人を企てるという設定は、一時代前なら考えつきもしなかったはずだ。長寿化とともに、人間の活動が年齢に制限されなくなってきているということなのだろう。