セメント業界は合従連衡で巨大化の一途をたどってきた。写真はフランスとスイスの企業が合併して世界最大のセメントメーカーになったラファージュホルシム(スイス)のロゴ

 2016年6月29日、太平洋セメントは持分法適用会社である韓国のセメント大手、双竜洋灰工業の保有全株式(32.36%)を韓国のファンドに売却すると発表した。日本企業による過去最大級の韓国企業買収劇は、紆余曲折の末16年で幕を下ろすことになった。

 太平洋セメントはこれまでに800億円ほどを双竜洋灰に投資してきた。今回の株式売却額は4500億ウォン(1円=10ウォン)。450億円ほどだ。

 すでに16年間の間に株式の評価損を計上しており、太平洋セメントは今回の売却で特別利益を計上することになるが、海外投資としてはほろ苦い案件となった。

外資誘致のモデルケース

 太平洋セメントによる双竜洋灰への投資は、日本企業による韓国企業への出資としては過去最大規模だった。また、韓国から見れば、「外資を誘致した韓国企業再建のモデルケース」だった。

 2000年当時は、大きな話題になり、日韓の産業界の強い関心を集めた投資案件だった。

 だが、その後16年間、世界のセメント業界も韓国の経済状況もあまりに変化し、日韓M&Aは期待ほどの成果を上げることができなかった。

 時計の針を2000年に戻してみよう。

 セメントという地味な業界で、日韓の大型M&Aが実現した背景にはいくつかの要因があった。

 まずは「売り手」に大きな事情があった。

 後で詳しく触れるが、「双竜」は韓国を代表する財閥だった。双竜洋灰はこの財閥の中核企業だった。