有人火星探査の想像図。(画像:NASA

 今や世界人口は70億人を突破し、2050年には90億人に到達すると予想される。

 世界自然保護基金(WWF)の試算によれば、人類が今の暮らしを続けるには地球1.5個分の資源やエネルギーが必要であるという。そのため、地球環境への負荷を軽減していく努力が進められている。その一方で、人類は月や火星など、地球以外の新しい居住地を開拓する研究も進めている。

 人気漫画「テラフォーマーズ」のように、火星のテラフォーミング(環境を変化させ、人類が住める惑星に改造すること)にゴキブリを投入することは果たしてナンセンスだろうか。この漫画のように、ゴキブリが人類に危害を与える生物へ進化を遂げてしまうのは避けたいところであるが、現実に考えるとゴキブリは案外有望かもしれない、というのが筆者の考えだ。

JAXAや国連が昆虫食に注目

 宇宙航空開発研究機構(JAXA)は2006年、火星移住を研究する中で、食料として昆虫を利用することを推奨した(Biological Sciences in Space, 20: 48-56)。宇宙農業を営む際に適した作物は、コメ、ダイズ、サツマイモ、コマツナといった献立を考えたが、アミノ酸のバランスや動物性脂肪の不足を考慮し、これら4つにさらにカイコガを加えたのである。

 ここではゴキブリの検討はされなかったが、昆虫は全般に栄養価が高く、宇宙の生活では不足しがちな動物性タンパク源である点も注目された。大型家畜や魚介類といった動物性タンパクを火星で育てるより、小型で持ち運びがしやすく、植物から直接タンパク源を生産できる昆虫を活用するわけである。

 その後、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨する報告書「食用昆虫─食料および飼料の安全保障に向けた将来の展望─」を発表して以来、食料生産手段の1つとして昆虫養殖への関心が高まってきた。その中で、カイコだけでなくゴキブリも養殖の可能性が検討され始めてきた。