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戦地に旅立った息子の好物であるおはぎを手に母親は・・・(写真はイメージ)

(文:野坂 美帆)

 本書『戦争とおはぎとグリンピース』は、西日本新聞の女性投稿欄「紅皿」に寄せられた投稿のうち、42編を収録したものだ。

 西日本新聞は、福岡県を中心に九州で発売されている地方紙で、「紅皿」は敗戦から9年がたった昭和29年、「婦人の日日の明るい経験や意見、主張や(略)真実の声をほしい」という呼びかけのもと開設された。欄誕生から10年間に寄せられた約3000もの投稿のうち、戦争に関連する300余話からその一部を書籍としてまとめたものである。

 編者が本書を作り上げるきっかけになった投稿がある。「おはぎ」と題された1編だ。

 投稿者は福岡市の主婦。戦地に旅立った息子の好物であるおはぎを手に、終戦後、帰国船が到着する度に駆けつけるが、息子は帰らない。そして消息を聞き、という話だ。彼女にとって、息子は兵士ではない。ただ、おはぎが好きな愛しい息子である。陽気な息子は召集され旅立つ前日に、母の作ったおはぎを「うまい、うまい」といって食べる。息子が帰って来たならば、一番に好物を食べさせてあげたい、そういう思いがあったのだろう。帰国船が到着する度におはぎを抱えて駆けつける。しかし、その後、おはぎは仏壇に供えられるようになる。

 編者はこの1編に心動かされ、「紅皿」の古いデータを読み漁り始めた。