(文:足立 真穂)
作者:岸 由二、柳瀬 博一
出版社:筑摩書房
発売日:2016-05-09
東京、品川駅から電車で1時間半、終点の三崎口駅から歩いて30分。小網代は、都心からおよそ60キロの三浦半島にある自然の楽園だ。コンクリートで固められていく首都圏にありながら自然がまるごと残っており、しかも、誰でも歩ける身近な場所として大人気だ。なぜそんな「奇跡」が起きているのだろう?
「奇跡の森」。首都圏でも可能な環境保全の好例として、そう評される小網代の森だが、そこに長年かかわってきたふたりが、本書『「奇跡の自然」の守りかた』の書き手だ。一般の人が気軽に入れるようになるまでの丁寧な保全の経緯と、実際に私たちが出かけた際の森の見所をまとめている。
そのふたりとは、進化生態学を長年研究されてきた岸由二さんと、普段は出版社で編集や広告業務に携わる柳瀬博一さんだ。岸さんの名前を初めて知ったのは、大ベストセラーとなった『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス著)の翻訳だったように思う。ほかにも『人間の本性について』(エドワード・O・ウィルソン著、ピュリッツァー賞受賞)の翻訳も手がけておられるが、どちらも、読んでおいて損はない話題の名著だ。
さかのぼること30余年、1980年代に、慶応大学日吉キャンパスで一般教養過程の生物学を教えていた岸さんの授業をとったのが、柳瀬さんだった。ちょうどその頃に、小網代を「奇跡の流域生態系」だと看破し、保全活動を始めようと決めたという岸さんが、学生の柳瀬さんにも声をかけて・・・という縁で、ふたりは30年以上、小網代に通っていくことになる。