300万部突破という記録的なベストセラー『女性の品格』で知られる昭和女子大学学長の坂東眞理子氏。最新作は『女性の幸福(仕事編)』だ。

 タイトルだけを見ると、今回も女性向けに書かれた本のように思える。だが、中身は女性に限らず、あらゆる社会人に向けられた「働く心構え」の教えである。

 部下をいかに育てるか、いかに組織を率いていくかという、上司・リーダーの心構えも含まれているが、書かれている内容の多くは、社会人にとっては基本中の基本だと言える。

 坂東氏がこうした基本を強調したかったのには、もちろん理由がある。その奥に浮かび上がるのは、日本の教育が抱える根深い問題だ。

「一番大事なこと」を誰も教えてくれなくなった

── ビジネスパーソンにとっては非常に基本的な内容だという印象を受けます。あえてこうした内容の本を書いた理由は何でしょうか。

女性の幸福(仕事編)』(坂東眞理子著、PHP新書、720円、税別)

坂東氏(以下、敬称略) かつての日本の企業は、「人材養成機関」でした。大学を出たばかりで、それこそ口の利き方とか挨拶の仕方も分からない新人に手厚い教育を施して、企業を支える人材を育てあげた。大学時代をモラトリアムで過ごした新人が入ってきても企業はびくともせず、「うちがしっかり教えて育ててやる」という自信にあふれていました。

 でも、1990年代以降、大きく流れが変わりました。日本経済の競争力が落ち込む一方で、企業は短期的な業績向上が求められるようになり、人材養成機能を失っていきました。今は、とにかく即戦力となる人材が求められ、「あなたは何ができるんだ」と問われるようになった。

 だから、他のところで即戦力となる人材を養成しなければならなくなっている。大学もそうだし、この本も企業の人材育成機能の一端を担おうとしているんですよ。