ミシュランガイド、シンガポール版発行へ

シンガポールの夜景((c)Relaxnews/shutterstock.com/junjie)〔AFPBB News

 海外からメイドを受け入れるという形で始まった日本の実質的な移民受け入れ政策について前回はお伝えした。しかし、メイドを使うことすらほとんど経験のない日本にとって、移民の受け入れはハードルが高い。

 今回は移民によって国を発展させてきたとも言えるシンガポールの例を中心に、移民受け入れの課題を浮き彫りにしてみたいと思う。

 移民によって成長してきたシンガポールが、その政策を転換し始めたきっかけは、2011年の総選挙だった。

 与党・人民行動党(PAP)が史上最低の得票率に甘んじ、現職の閣僚が落選したうえ、さらに集団選挙区で史上初めて野党に敗北するという、“屈辱的な歴史的後退”を強いられたことが背景にある。

与党の移民政策に国民が猛反発

 シンガポール国民が野党に支持を打ち出した最大の理由は、政府が進める「外国人移民政策」への反発と不満からだった。2006年から2011年の間、シンガポール人の増加率が約5%だった一方、外国人は63%まで急増し、2013年には外国人の割合が約43%までに膨れ上がった。

 この外国人の大幅増加と並行して、住宅や物価の急騰、さらには子供の教育機会の不公平性から、「外国人に職と所得、教育の機会が奪われている」といった長年の鬱憤と不満が与党への批判票に結びついたというわけだ。

 実際、シンガポールのタクシーに乗るたびに、「こんな国があるか。国の統計は怪しい。実際は、外国人と自国民の数は今では同じ。不法滞在者を含めればいやそれ以上だ。MRT(地下鉄)に乗ると、中国人はあふれているし、バングラデシュに、フィリピン人。白人も我が物顔で、わけの分からない言葉が飛び交っている」と年々、ドライバーの怒りは瞬間湯沸かし器を“沸騰”させているかのように上昇中だ。

 国民の怒りが爆発するなか、シンガポール政府は移民受け入れ規模縮小という移民政策の見直しを強いられた。

 2013年1月発表の人口白書で総人口の伸び率が縮小傾向のなか、「2030年までの人口想定値を690万人、外国人割合を45%に拡大見込み」とし物議を醸したが、同年2月の予算演説では一転して、2018年までの見通しとして、外国人労働者の急増抑制政策を発表したうえ、外国人雇用税の一層の引き上げと外国人雇用上限率の引き下げも追加抑制策として発表。

 さらに、各種ビザなど在留資格の認可、発給条件の引き上げも実施し、新規国籍取得や永住権の認定件数は減少。

 永住権の場合、2008年には新規永住権取得が約8万件だったのが、半分以下の3万件までに激減し、新規国籍取得も減少傾向にあり、2015年10月に発表された(同年6月現在)総人口数554万人のうち、シンガポール人が338万人、外国人が216万人で外国人が占める割合は約39%にまで減少している。

 シンガポール政府は国民の不満の頂点に達している不動産価格急騰の抑制にも着手した。購入後1年以内の転売には取引価格の16%の印紙税を新たに課すことで、投資目的の不動産売買を抑制し、不動産価格の上昇を食い止める措置を講じた。

 加えて、外国人の住宅取得では、現行の印紙税3%に加え、取引額の10%を新たに追加印紙税として支払うことを義務づけた結果、2011年には外国人の民間住宅保有率が約20%から6%にまで激減したとされる。

 また、シンガポール人の約80%が住むといわれる公営集合住宅(HDBフラット)購入でも、永住権取得者らが殺到したことで、販売価格が上昇。国民の怒りを買っていたが、月収などの制限を設定することで価格上昇に歯止めをかけた。