昨年12月、モスクワで、日本人の仕事仲間と一緒にこじんまりとした素敵なイタリアンレストランで夕食を取った。食事はおいしく、質も良かった。食事の間、若い女性支配人が2、3度私たちの席へ来て、「何も問題はないですか」と聞いてきた。緊張した顔つきで、笑みも浮かべず、刺々しい口調で尋ねてくる。私の連れは、こう言った。
「彼女は我々が満足しているかどうか、すごく気にしているんだね! とても責任感の強い女の子だ、はっはっはっ!」
つっけんどんな態度の裏にあるものを理解するには、数十年に及ぶロシア暮らしの経験が必要だった。
だが、ロシア流のサービスを特に知らない日本人だったら、苛立ちを覚え、とにかく早く食事を済ませようと思ったかもしれない。私自身、日本の「おもてなし」文化に甘やかされただけに、女性支配人は威嚇的に見えた。
笑顔のないサービスの歴史的背景
モスクワで働く外国人ビジネスピープルは、外食や買い物など公共の場に行くことを避けられない。確かにロシアのビジネスは、この10年でかなり洗練された。それでも、いわゆる「お粗末なサービス」に出くわす場面はあまりにも多すぎる。人間のコミュニケーションのスキルもそうだが、イントネーション、表情、声、身振り素振りもそうだ。欧州の人にとっては、バカらしく、苛立たしく思えるかもしれないが、日本人にとっては、ほとんど苦痛になり得る。
モスクワのユニクロで働く若いロシア人管理職と話をしたことがある。彼は27歳。非常に賢く、すごい早さで出世しており、ユニクロの仕事を本当に気に入っている。日本流の制度は、彼のプロ意識と長期的なものの考え方にぴったり合っているようだった。それでも彼はユニクロの企業文化のある一点は完全に否定していた。すべての客に笑顔を向ける、というのがそれだ。
そして、彼は正しいのかもしれない。
「人によっては笑顔を評価するだろうが、笑いものにされていると感じる人もいる。スタッフの笑顔を見て、いきなり攻撃的になり、『一体何がおかしいんだ!』と言ってくる人さえいるかもしれない。だから、お客さんに向かって微笑みかけるかどうかは慎重に決めないといけない」
実際、ロシアでは、顧客に笑いかけるかどうか決める前に、その顧客のことを知ろうとするウエートレスやウエーター、支配人が多すぎる。これはソ連時代の遺産だ。